2020年9月18日
ソレックス ニスモφ44
近頃巷で大人気のソレックス ニスモ44φ
のオーバーホールとなります。2年ほど前にオーナー様がオークションで購入した物ということで、中身の状態が分からないのでチェックしてほしいとのご依頼です。品物としてはインテークマニフォールド・キャブ・燃料デリバリー・遮熱版とすべてそろって組んであるコンプリートものです。画像ではすでにだんだんと分解チェックし始めていますところです。
ニスモφ44はもっとも目に付くところはフロート調整用機構造形アルミ鋳物構造が左右に対象で付いているところですかね。画像右側の三日月状のリブはアルミ鋳物造形だけで止めている状態で、面白い形をしています。理由はキャブ配管右だし左だし用をこのアッパーカバー鋳物1種類で兼用して鋳物金型を費用削減する為でしょう。この鋳物を加工仕上げ時にどちらを加工するかで右だし左だしを振り分けているはずです。画像ではすでに取り外していますがフェールパイプが前後方向に取り付けるのも特徴で、これだとジェット調整の時に邪魔になりません。
アッパーカバーを取り外しました。
フロート室底面に沈殿物がたまっていますが、たいていのキャブでは時間が経つとこうなります。掃除すれば取れます。
んーん・・、この細長いスリットのところ、コールタールのような液体がたまっています。長い時間の中でいろんな汚れや蒸発物、ごみなどが溜まったものと思われますがフロート室とは分離しているところなのでこのようななります。掃除しなきゃね。
キャブのヘッド側アイドル系のガス吹き出し口4個あります。その手前に少し離れてある1個の穴がアイドルミクスチャーのテーパーボルトが刺さってくるところですがボルト締めすぎてこの穴が花が咲く(破壊している)ことが良くあります。そうするとアイドルミクスチャーがメタメタになります。それにしてもここにも内径一周ぐるりとカーボンというかヤニのようなものが堆積しています。左上部のチョーク時ガス吹き出し口の形状が少し崩れているかな、問題ないけど。
フロート、特に問題ないようです。
キャブ裏側
こちら側は上面に比べて結構汚れています。
加速ポンプのダイヤフラム
特に問題はなさそうです。このダイヤフラムを間違えて上下逆に組んでいたキャブが来たこともありますが、そんなのはめったにないでしょうけど。
インナーベンチェリーとアウターベンチェリー
インナーベンチェリー 横棒のところがつぶれたようになっていますが製造時のアルミ鋳造の鋳口(溶解したアルミ溶融物を注入する通路)を切り取った跡ですがずいぶんと雑な仕上げです。ここを高速の吸入エアーが通るのですからもっとなだらかに仕上げて抵抗を少しでも減らしたいところです。
出来る範囲で仕上げました。あんまり削ると内部のガソリン通路に穴が開くので大きな形状変更はやめときます。
アウターベンチェリー(ウェバーではチョーク)
周囲のバリや汚れ傷を修正していきます。37と見えるのが内径サイズです。
アッパーカバーにあるフロートニードルバルブです。これも良く消耗するところでニードルが段付き摩耗したりします。そうするとガソリンのオーバーフローを起こし危険です。
二ドル部分を分解。今回は予防的に交換してゆきます。
バルブ本体の外周にニードル穴径が刻印されており、これは#1.8となります。
アッパーカバーにはチョークの装置もありますが、通常は皆さんめったに使わないでしょう。ただこれが故障すると燃調が酷く悪くなるので、チョークがちゃんと閉じているかどうかの確認は必要で重要です。
分解画像取るの忘れましたのでまた後で。
カバーを外しました。中に見えるのがチョークバルブです。カバー側のスプリングで向こう側に押し付けられています。バルブに2個ある穴からチョークガソリンが吸い込まれます。
バルブをひっくり返すとこのようになっています。本体側の2個の穴はそれぞれのマニフォールドに直結してます。バルブを回転することでこの穴を塞いだり、半分開けたり全開したりとなります。下側にある小さな穴から先ほど見たチョークジェットで軽量されたガスを吸い上げています。
これをよくよく見ると面白い形をしています。
吸い上げたガソリンは再びこの小さな穴から向こう側の2個の穴へ入ります。
裏側の細く伸びたパイプの穴がチョークのガソリン吸い込み口となり、横にある小さな穴はエアー穴だと思います。この先はフロートの底面につながっていますがそこにはなんとジェットが付いています。
3個ある穴の中央の穴からガソリンを吸い込み、両側の穴からそれぞれの気筒へチョークガスが吸い込まれます。フロートの底面にあるのがジェットで#160でした。 ウェーバーにもこの位置にジェットがありますがそれは加速ポンプの圧力逃がし用の働きですので全く働きとしては異なっています。
ここからチョークガスが吹きだしているのですが、バタフライの後方側に穴が有るのでチョークから空気やガスを吸っていると燃調に悪影響がもろに出ることでしょう。
画像中央が加速ポンプの機構が有るところでここは重要です。中央の丸い金属の物は単なる蓋でネジ止め加工はされてませんのでこの状態でキャブを上下に振ると反動でどこかに飛んで行ってしまいます。
その結果どうなるかというと内部にあるこれらの部品もどこかに行ってしまいます。特に丸い球は小さくて丸いので飛び出ると転がって分からないところへ行ってしまいます。丸い球がガスのストッパーで円柱状の物はウェイトですね。
加速ポンプのダイヤフラム室部分
左のパーツの内部の穴からダイヤフラムで押されたガスが通り、キャブ本体の四角窓の下辺にある穴を通って加速ポンプジェットまで通じています。その途中に先ほどのボールストッパーとウェイトがあり、アクセルをゆっくり踏んだ時はウェイトストッパーの力が勝りガスはフロート室へ戻り、アクセルを素早く踏んだ急加速時だけウェイトボールストッパーを押し上げて加速ポンプジェットへガスが噴き出すようになっていると思っていたのですがそれにしてはガソリンの逃げ場が明確では無いので、実質的にはダイヤフラムのガソリンはほとんどすべていつでも加速ポンプから出ていることになる様です。(左側のパーツのワンウェイ機構から少しはガソリンが逃げているのかもしれません。)ここはウェーバーとは大きく異なるところでウェーバーにはスロットルをゆっくり開いた時には加速プランジャー圧が逃げるようにわざわざジェットまでつけてバイパス機構がありますが、ソレックスにはそれが無いように見えます。
ダイヤフラム室の裏側=キャブ側の円筒状の部分からダイヤフラム室にガソリンを供給しますが、ここにはベアリングボール玉が入っていてワンウェイ機構となっていてここが詰まると加速ポンプが効かなくなりますのでチェックですがパーツを振ってカラカラ音がすればOKとしている場合が多いです。ウェイトボールもキャブを振るとカラカラ音がするのでどっちの音なのか見極めするのは難。
ラジオペンチでつまんでいるのが加速ポンプジェットです。アルミの小さなガスケットがありますのでなくさない様にする必要があります。このワッシャー現在は単品では出ないので、シールフルキットを買うことになります。
アイドルアジャストスクリュー
画像上部のスプリング付き-頭ネジ
キャブ調整で必ず調整する部分で締めこんでから1回転半戻しとか言っている部分です。この締めこんでという言い方が問題で、普通のねじを締めるのと同じように手ごたえがあるまでめいっぱい締める人はいないでしょうが、誤解のないように言えば「締めこんでいってほんのわずかに抵抗が増えるところまで締める」という言い方が良いと思います。めいっぱい締めたらそのキャブはオシャカです。
取り外したところ
先端はこんな形で繊細です。
これが新品の状態、先ほどの現品とはだいぶ形状が異なります。それだけ摩耗するということでしょう。
このアイドルミクスチャーには頭に矢印マークがついていてわかりやすくできています。
組み付けに入っています。
加速ポンプのダイヤフラム交換
右が球 左が新
フロートのニードルバルブ
左が旧 右が新
バルブ径は#1.8
古くなった多くのものがバルブのテーパー面に段付きが出来ていますので交換した方が良いところです。
スロットルシャフトのこの部分にあるゴムシールを交換します。左右あります。
アッパーカバーを取り付ける前に本体側にこの張り付き防止オイルを薄く塗っておきます。次回分解時パッキンが張り付いて破れるのを防ぐためで、こうしておけばパッキンはフロートとともにアッパーカバー側に張り付くはずです。
キャブ本体の完成です。ねじも新品にしてきれいになりました。
裏側
マニフォールド・リンケージ関係のチューニング
インマニの内径はすでに表面の凸凹を軽く仕上げてあるので今回はそのまま行きます。実際にはエンジン側のマニフォールドと内径を合わせることが望ましいです。また、もう一つ取り付け時に穴位置ずれを起こさない工夫が必要です。エンジン取り付け時に内部から覗いてエンジン側とずれていないかチェックしてその位置でエンジンとマニフォールドの間で位置合わせ目印を引きます。
このインマニ、一見きれいですが先ずはこの部分がだめです。軸受け部はドロドロのオイルが残っているし、手でゆするとシャフトはガタガタ。これではリンケージの同調など取れません。
プラスチックのカラーが入っていない中央部のこの簡易的な支点の所ではシャフト側が偏心気味にこのように摩耗しており、思った以上にこの部分には力がかかっていることが分かります。
このタイプの押しレバー、アルミ鋳物では無いのでまだよい方ですがこれでも強度不足でロックネジを締めても反対面に密着するだけでシャフトを掴めないことが起こってきます。画像でも割りスリットが密着していることが見えています。こうなると固定できたように見えても使用しているうちにだんだんと滑ってずれてきます。しまいにはボルトの左側の一番肉厚の薄いところに亀裂が入ります。薄肉アルミ鋳物品の場合はほぼ100%そうなります。
偏心摩耗が発生していた中央部の軸受けについてはアルミ削り出しでパーツを作りました。
内部にはニードルベアリングをインサート
両サイドのいままで白色のプラスチックカラーが付いていた部分にもニードルベアリングをインサート
結果、リンケージシャフトがこのようにブン回るようになりました。
全体像
後はスロットル押しレバー類を取り付ければ完成となります。
押しレバーを強化タイプに換えて組付けました。
アウターベンチェリー 37mm
ジェットブロック 0Aビジェ
メインジェット #155
エアージェット #180
アイドルジェット #55
ポンプジェット #45
が現状の値ですがL3.1フルチューンに組む場合は
メインジェット #180
エアージェット #230
アイドルジェット #65
ポンプジェット #60
くらいかなと思いますが、これはエンジンのチューン度合いにより異なるので実車で調整が必要です。
アイドルミクスチャーや押しレバーの同調は同じく実車での調整となります。もう一つフロートレベルもエンジンにより異なるので調整が必要です。