ブレーキのミステリー 正当派からのお告げ 2012年10月
1か月ほど前のことですが、いつもの様に裏山の秘密のテストコースで試走していた時のことです。5kMほどの峠道を登って降りるコースですが、登り終わってガソリンスタンドに向かう時に、信号で止まるまでに惰性で走る時に違和感が有りました。ブレーキが引きずっているような感じです。ブレーキを足で踏むと踏み代が無く、ブレーキペダルが戻ってこない感じです。
変だなと思いつつも走り続けましたが、ガソリンスタンド前の信号ではもう、ブレーキを踏んでもいないのに、シフトチェンジの間に減速してしまう様になりました。そのまま半クラで無理して何とかガソリンスタンド内に逃げ込みました。
下りでブレーキを酷使しすぎたのでしょうか?それなら冷やせば直りますが、通常は過熱の場合はブレーキが利かなくなるはずです。ホイールを前後触ってみてもそれほどヒートしていません。キャリパーを直接触っても普段とそれほど変わりません。
私はこの様な場合、自分の直感のままに修理にあたる傾向があります。正統派のように順を追って一つずつチェックするという事が出来ないのです。整備書も何回も読んでいますし、仕組みも分かってはいるつもりですが、なぜか自分の本能のおもむくままにあっちこっちいじくりまわします。
とにかくブレーキラインに圧力がかかりっぱなしになっているのは間違いありません。試走時は何ともなくブレーキもよく効いていたのですが、突然こうなりました。キャリパーMK63が引きずっているのなら、突然こうならず、徐々に現象が出るはずですので、キャリパーは故障原因から除外しました。
ブレーキペダルが戻らないというところで、有ることがひらめきました。ブレーキラインが密閉状態になって押されたままになっている・・・・。そういえば一か月ほど前にブレーキマスターシリンダーのキャップをタイラップで固定したぞ! あそこにはたしかエアー穴が有るはず・・・・。
思えばここに論理の飛躍が有ったのですが、ためらうことなくエンジンルームへ行き、タイラップを外しました。そして、ブレーキを踏んでみるとやっぱり直っています。何事もなかったように、元どうりに直りました。なんかの本で読んだことあります。突発故障は最近いじったところが原因で起こることが多いと。
これでよければめでたしめでたしなのですが、それから1ヶ月後の昨日またいつもの様に前述と同じコースを走ったのですが、なんと又同じ現象がおこってしまったのです。しかも今度は峠道の下り途中の真っ暗な所でです。どうしましょ・・・。もうこの前の犯人のタイラップは外しているから、疑いようがないです。
こんな場所ではチェックしようにも暗いし、下回りにもぐることも出来ません。工房までなんとか戻れればいろいろやりようはあるし、最悪ほったらかしでもいいんですが、ブレーキでロックされてては、人力でも押すことすらできません。
JAFの要請を考え出していましたが、とにかくブレーキ圧を抜くことだと思いなおし、ブレーキマスターシリンダーの横に有るエア抜きを緩めました。すると、なんと直ってしまったのです。またもとどうりです。ブレーキもちゃんと効くし、戻りも問題ありません。やっぱり、諦めないことですね。
ということで、無事に工房に戻り、原因をつぶす作業に入りました。もう、すでに私の直感はブレーキマスターシリンダーしか見ていません。だって、ここの圧を抜いたとたんに直ったんですもの。きっと、内部のピストンが引っ掛かって戻らなくなるんだ。このシリンダーは一度も変えたことが無いので、すでに35年前の部品ということになります。何万回と踏まれるブレーキですから摩耗しても不思議はないです。そうです、これが悪いんです。
でも、思えばここに倫理の飛躍が有ったんです。後から思い知らされました。冷静に正当に考えれば、全然的外れの原因であることが分かったはずです。
これが35年間使ったブレーキマスターシリンダーです。内部のピストン部品は消耗品なので何回か交換していますが、シリンダーは無交換できました。これを今回交換します。根元に有る上下2本のM8ナットを外せば取り外せますが、その前に下側に出ている、ブレーキライン2本を外す必要があります。このナット材質は柔らかいので、ブレーキフレアナットレンチという特殊な工具で外します。片口スパナではなめますし、ボックスはラインが邪魔ではいりません。
このマスターシリンダーはトキコの製品でした。取り外す前にカップの内部のブレーキ液をすべて吸い取っておきます。ブレーキ液は塗装を侵すので注意が必要です。
そして取り外してピストンを抜いてみると確かにシリンダー内部に摩耗が有ります。特に入り口側は見た目でわかるスジが入っています。でもよく見るとこれでピストンが引っ掛かるほどの段付きはなかったのですが、直感の亡者と化した私は、入り口の摩耗スジを見てふんふん やっぱり とうなずくことしかしなかったのです。
そしてこれが交換するシリンダーですが、ナブコの製品で、今までのとは少し違うところが有るようです。下のラインを接続するところのナットの外径が違いますが、フレアナットの穴径は一緒なので、問題なさそうです。これは、20年ほど前にスペア持ちたい病にかかった時に、購入していたものでディーラから買った新品です。
交換しました。ピッカピカでの新品です。
下側にブレーキラインが出ていますが、左側がリヤ側、右側がフロント側につながっていますので、2系統ラインになっています。どちらかのラインが液漏れしても、片側の機能が残せる安全機構です。
この左側のラインのナットの接続がなかなか出来ず難儀しました。シリンダーの裏側に有るためナットの状態が見えず、手さぐりでの作業となります。何回もやりましたがだめで、結局このラインのもう一方の端がバルクヘッド面に止まっているのですがそこのナットも外して、ライン全体を一旦取り外しました。
ナットをチェックするとネジ山入り口部がつぶれています。これではネジが入っていきません。ここは特殊な極細ピッチのネジなのでダイスが有りませんで、しかたなく細いハンドやすりでネジの谷に沿って丁寧にさらいこみして行き、最後は外したシリンダーに仮にねじ込んでネジを確認してから、再度とりつけに入り、何とか取り付けました。
この後、ブレーキラインには当然エアーが入ってしまったのでエアー抜きが必要です。
ブレーキのエア抜きは4輪すべてやる必要があります。通常は後輪の左から始め、後輪右、そのあと前輪左右となります。
これは通常2人作業で、一人がブレーキペダルを踏み込み、もう一人がエアー抜きプラグを開け閉めしますが、息が合わないとだめです。はい、踏んで踏んで、はい踏みっぱなしー と掛け声をかけ、この踏みっぱなしーの時にエアー抜きプラグを緩め、すぐに締めます。
私はこれを一人でやらなければならないんですが、どうするかといいますとブレーキペダルを押し込んだ時、シートフレームまでのちょうどいい長さのの棒を用意して、ブレーキペダルとシートレールの間に挟み込んでしましまいます。今回はサスペンションのカートリッジ式のガスショックを利用しました。この状態でブレーキの所にいき、プラグを開け閉めし、これを繰り返すのです。
ワンウェイバルブも持っていますが、うまくエアーは抜けないようです。
ついでにブレーキパッドもチェックしますが、かなり減っています。見て置いて良かったです。
このパッドはスポーツ走行用で減りが早そうです。5000kMぐらいだと思うのですが、半分以下に減っています。
ローターはベンチレーティッドで、中央部はアルミ2分割で出来ており軽量化されています。
ブレーキラインはキノクニのメッシュホースです
これはついでに コンプレッションロッドですが 、ニスモタイプというのでしょうか、テフロン製のぐりぐりの様なものとアルミの受けでリジットに受けるようになっています。黒いテーパー状のカバーの中にそれが隠れています。後ろ側は通常のゴムブッシュです。ハンドルのしっかり感がかなり向上します。
ピロボールに変えるものもありますが、完全にリジットだとやはり振動がひどくなる様な気がして、このタイプにしました。 ちなみにロアアーム付け根のゴムブッシュをピロボールに変えると、完全にボディーに影響が出るらしいです。
さて、ブレーキエア抜きも完了してすべておわりました。ここまで始めてから3時間半かかりました。
ブレーキラインの取り付けで苦戦した分が40分ほどあります。
やれやれと思いながらふと後ろを見るとブレーキストップランプが付きっぱなしです。ブレーキを踏んでもいないのになぜ?・・・・
そして、ブレーキを踏んでみるとなんとあの ブレーキ勝手に踏み込み ミステリ現象がまた出ているのです・・・・!。 透明人間がブレーキペダルを押さえてる・・・?
え~ え”~ え‘”~~
そうだ、ブレーキマスターシリンダー交換したので、ブレーキぺダルの位置が変わってしまったんだと思い、(そもそもそんなことは無いんですが マスターは完全に同一ですから)運転席の下に潜り込んで、ブレーキペダルを確認しました。
結果分かりました。
この画像はブレーキペダルのストッパーの位置ですが、円筒状の光っている部品がストップランプスイッチで、その上側に見える黒いものがストッパーゴムで、これはブレーキペダルに固定されているはずなのですが、なぜか斜めになってかしいだ状態で挟まっていました。つまり通常なら画像の様に収まるべきストッパーゴムが斜めになったため、ブレーキペダルを押さえた状態で挟まりこんでいたのです。
つまり今までの不具合はこのゴムストッパーがなんかの拍子に斜めになって挟まってしまい、初めの2回の復元はたまたまブレーキを何度も踏んでいるうちにこのゴムストッパーが元に戻っただけだったんですね。それにしても最後の最後で、工房内でこの現象が出たことは奇蹟に近いことです。これがここで出ていなかったら、またどこかで ブレーキ踏みっぱなしミステリー に悩まされるところでした。
なんとも物理的な原因です。 正統派ならすぐに見破ったはずの単純な原因です。ブレーキペダルが戻らない=ブレーキペダルに何かが挟まっている 当然です・・・・ ・・・・。
よく見るとペダル側にこのゴムストッパーを固定する為の何らかの固定ナットが有ったはずなんですが、見当たりません。とおし穴の中にゴムストッパーの軸を差し込んだだけの状態です。振動で緩んでしまったのでしょうか?すぐにM8ナットで固定をしました。
今回の反省点
1)ブレーキマスターシリンダーのエアー穴を塞いだ場合、ブレーキ液が落ちなくなるのでブレーキが利
かなくなるはず。ブレーキが効きっぱなしになるほどの圧力が溜まるわけが無い。
2)ブレーキマスターシリンダーが摩耗してピストンがひっかかった場合、ブレーキペダルは自由に踏み
込めるはずで、今回の様に踏みっぱなしという現象は生じない。
以上 直感だけで動くと痛い目に合うという 正統派からのお告げ でありましたとさ。