2014年3月7日
ベントリーに乗るハコスカ紳士
71B FS5C71Bポルシェシンクロを
71BコンパチB’ βー1 ワーナーシンクロへ
今回は地元静岡市内の清水から依頼されました。どなたかが口コミでご紹介してくださった様でありがたいことです。持ち主はベントレーに乗る紳士で、他にも車を持っており全部で4台を所有なされているということで車が好きな方ですね。
ハコスカですが外観的にはフルオリジナルのようで、またヤレが少ないというか、ほとんどワンオーナーと思われるような外観です。
ワンオーナー車とそうでない車はよく説明できませんがなんとなくわかります。
ミッションの取り外し、取り付けは工房から近いなじみの車やさんに依頼しました。リフトで上げて一緒に悪そうなところをあたっていきます。
年式的には中期というのでしょうか、ミッションは2分割の71Bでポルシェシンクロですね。そしてプロペラシャフトはフランジ接続タイプです。
ミッションの入りがときどき悪いということと、異音も気にしているようです。
私も乗ってみたのですが、車検をとったばかりということでひどくSUキャブが吹き返し走りません。さらにブレーキの効きがひどく悪いし、おまけに足元ではシューシュー音が・・・・。
これはいつかのパターンとすごく似ています。マスターバックの破損です。
画像はフランジ接続のミッションアウトプット部です。
試験走行の中ではやはり問題のミッションはときどきシフトがひっかかり、異音も感じられます。
さらにクラッチペダルが普通ではない粘り方をしています。足で押し込む時 粘土を踏んでいるような動きです。なんか変だ・・・・。調べてみなければなりません。
クラッチベアリングがこんなのが付いていましたが、私が今までに見たものと形が異なっていますが、これでいいのでしょうか?
普通多いのはこの画像に左の様な形のものですが、右がこのハコスカのです。
フロントカバーですがここだけ汚れが少なく一度開けられているようです。外してみると・・・・。
なんでこうしちゃうのかなー。
画像 クラッチフォークの入る四角い穴の右側、カバー取りつけ面にドライバーを打ち込んだ跡が削れてしまっています。
まずは分解していきます。
フランジタイプのアウトプット部ですが、ここにはボールベアリングが入ります。スリーブタイプはプレーンベアリンングとなります。
スプラインは25mmくらいの長さしかありませんが、これで160馬力受け止めるんですね。
もっともクラッチプレートも同じくらいのスプライン長さですからいいのかな。スリーブタイプはスプラインは100mmくらいあります。
シフトフォークですが71B共通のものです。華奢ですね。
メインインプット(=4速)のシンクロですが、普通の摩耗状態で、丁度替え時かも。
3速ですがシンクロの当たり面がつるつるになって面が出ているのが分かります。完全に交換時期レベルです。
1速ですがこれは完全に壊れているレベルです。シンクロの外周に削れて光っている面ができてしまっています。
2速も交換時期です。摩耗した面が出ていますし、少し光った面が出かかっています。
現状71Bポルシェシンクロの精度
1st 2nd 3rd 4th 5th
バックラッシュ 0.12 0.23 0.22 0.28 0.08
エンドプレイ 0.40 0.10 0.21 ---- 0.10
71BコンパチB’の組みつけ
走り主体の人たちはここでほとんどが71BコンパチCミッション化をしたいと考えますのでフランジタイプのケースは捨てて差し込みタイプのプロペラシャフト(71Bも4速ミッションは差し込みタイプだった)との交換を考えます。しかし今回はベントリー乗りのハコスカ紳士ですから普通に走れればいいという要望でしたので、このままフランジタイプを生かして中身のみ71Bのワーナータイプに交換します。71Bも80年ぐらい以降からワーナーシンクロに変わっています。ですから71BコンパチB’です。
これならシフト感が良くなって寿命も向上し、プロペラシフトやメンバーももちろんそのままです。
いつものとおりこのセンタープレートの部分から組みつけていきます。
ポルシェとワーナーではバックアイドラーのシャフトの逃げが異なっていましたので、交換してゆきます。5速のカウンターギヤの径が大きい様です。
前画像のベアリングですが上段が今回使用したシールドベアリングで、71Cはすべてこれになっています。下段は今まで使っていた物でオープンタイプで、これは摩耗に対して弱いです。
さて、いよいよメイン部分の組みつけですが、上から1速ギヤ 2速ギヤ ハブスリーブですが、
左の列が今まで入っていたポルシェシンクロ、右が今回新たにコンパチ化する71Bワーナーです。
各部の寸法を10ミクロン単位まで測定して互換性を判断します。
そしてこれは同じく3速の新旧です。
交換したボールベアリング達です。これ以外にニードルベアリング5個もすべて交換しています。
かなり端折りましたがギヤ関係が無事組みつけ完了しました。
すべてワーナーシンクロです。
71Bは 初代 ポルシェシンクロフランジタイプ
次に2代目 ポルシェシンクロスリーブタイプ
次に3代目 1-4速ワーナーシンクロ+なぜか5速だけポルシェシンクロ
次に4代目 1-5速すべてワーナーシンクロ化
次に5代目 ギヤ歯厚 厚歯化など71Cのプロトタイプの様なもの
と大まかな進化をたどっています。この中にもギヤ比の変化がたくさんあります。
この中で今回は初代から4代目へジャンプしたことになります。
新規組みつけギヤの精度
1st 2nd 3rd 4th 5th
バックラッシュ 0.08 0.08 0.10 0.10 0.08
エンドプレイ 0.30 0.16 0.24 ---- 0.25
シフトフォーク関係の組みつけ
次にシフトフォークの組みつけに入りますが、
これは5速ーバックのシフトフォークで左が今まで付いていたポルシェ、右は4代目ワーナー用ですが全く異なります。さらに4代目はアルミ二ウム製となって軽量化されています。
これもシフトフォークで上段が今まで使っていたポルシェ用、下段が4代目ワーナー用です。変更点は同様の様です。
そしてこれは3-4速のシフトロッドですが、いつも不思議なところです。
下段がポルシェですがクリック溝が1か所=ニュートラルにしかありません。ですから3速4速にシフトした時の節度が得られにくいと感じる人が結構います。
これに対して上段のワーナーには3か所のクリック溝があり、3速 ニュートラル 4速のそれぞれで位置決めしています。今回はこちらに変更です。これは1-2速も同じです。
シフト関係の部品が組み終わりました。
かなり近代的な雰囲気が出てきています。
ミッションケースへの組みつけ
リヤエクステンションの図ですが、いつもの様に完全分解してオーリングなど交換してゆきますが、今回はフランジタイプのまま行くので、いつもは見慣れないベアリングが存在します。これもシールドタイプへ交換です。
これがフランジタイプを組みつけたときの様子です。
この上にフランジが取りつき、ナットで締めつければ完成です。
で、一気に組みあげて簡易試験機e-zanaraizerに取り付けていいつもの様に試験します。
シフト感は当然ですがワーナーのカチャッ カチャッという感じになりました。ポルシェは言葉でいえばグニュッ グニュッですね。
実はこの試験で一か所問題が出ました。やはりフランジタイプとスプラインタイプの違いでケースに差が有ることが分かりましたが、もう一度分解してそこは工夫をして問題解消しました。次回は最初から対処出来ます。(自分メモ 3-4は+4mm、5-Bは+2mm 嵩上げ)
異音やオイル漏れ、バックランプスイッチ、スピードメーターギヤいずれも問題ありません。
さあ 71BコンパチB’ミッションの搭載です。
ジムニーにミッション載せて近所のなじみの車やさんにいつもの様に持ち込みます。
ここはリフトが有るのですごく作業が楽です。
問題の組みつけてあったクラッチベアリングですが、現物で確認してやっぱり決定的に違う部品を組んで有ることが分かりました。ノギスはクラッチカバーの内径を採寸していますが、ベアリングの淵ぎりぎりだしそのあとはR形状が有るので変な押し方になってしまいます。やっぱり前述のL型用が正しいクラッチベアリングだと思いますので交換していきます。
この間違えているベアリングはS20型エンジン用クラッチベアリングとすごく似ています。
ここは通常のL型用に戻していきます。
そしてもう一点おかしいというか、通常と異なる点ですが、このノギスで測っているインプットシャフトのクランクに刺さる部分の径ですが通常は16.00mmですが、この元々から組んであったミッションは15.8mmぐらいと小さくなっています。クランクに組んであるパイロットベアリングもそれに合わせて小さくなっていますので、辻褄は合っているんですがこんなのは初めて見ました。こういうのも有るのかなー。でもいいです。
訂正;メインインプットシャフトの先端の径は他のミッションでもφ15.80mmで同じでした。したがって上記の記載は間違いです。クランク側のパイロットベアリングが小さかったのは事実でしたので、変形かなにかして径が小さくなったのかもです。
搭載が完了した71BコンパチB’ フランジタイプです。もちろんスリーブタイプでも同様のことが可能です。その場合限りなく71Bオリジナルに近く、しかもワーナータイプのシンクロ付きのミッションになります。
プロペラシャフトも当然ですが元々あったものをそのまま付けるだけです。
画像が有りませんがミッションは無事搭載完了して試走して全く問題が無いというかすごく良くなりました。カチッカチッと気持ちよくシフトできるし、シフトダウンもスッと入ります。きもちいいー。
画像が飛んでいますがこれは、SUキャブの調整に入っている図です。車検をさる有名なところで取ったばかりなので、HCを絞る為かまともに走らない状態になっていますので調整です。現象としてはスタート時に吹き返して止まりそうになってしまい後続車に追突されそうな状態で、右折時はもっと危険で交差点の真中でエンストすれすれの状態です。これでは安全確保の目的の車検のはずが全く目的を果たしていないし、そもそも数少ない旧車に現代車の公害規制を課すことが必要なのといいたくなってしまいます。
とにかくキャブ調整 同調取りをして、点火時期も”適正”に戻します。
そして次に穴空きで全く効かないブレーキを復元する為、ブレーキマスターバックを交換していきます。
これも240Zが見る夢でも有った話ですが、この状態で車検は通ってきています。きっと物すごい右足の踏ん張り力のある人が対応したんでしょうね。
いままでの状態では慣れていなければ、まともには運転できない状態でした。
右側が新品ですが、もちろん日産では製造廃止で、残るのは在庫のみなので、希少価値から部品価格はどんどん値上がりしています。このマスターバックは内部はゴムで成り立っていますので、40年経つとやはり経年変化で問題が出る様で、ほとんど旧車がこの時期にこの部品の寿命をむかえてきているようです。
そしてクラッチマスターなんですが、2カ月前の車検の時にクラッチ液を替えているにも関わらずもうこんなおしるこの様な色になっています。完全にカップゴムが寿命ですが、この部品はまったく手に入りませんでした。
対処としてはこの部品全体をセットで交換ならまだ部品が有りますが、とんでもない価格で諦めました。
(5万円くらいです)
クラッチマスターは仕方なくオーバーホールして清掃のみにとどめました。
このクラッチ液の色 尋常では無いですね。
今は一応機能的には問題ないですが、遠からずクラッチが切れなくなるかもしれません。
ブレーキ・クラッチ共に外した状態ですが、こちら側は分解は楽なんですが、運転席側は狭い上に裏側から覗きこむようになるので、大変で頭に血が登ってしまいます。
でも何とか組みつけも完了しました。
ブレーキ・クラッチ共に復元完了です。
本日依頼人であるベントレーに乗るハコスカの紳士が引き取りに来られました。
これで無事持ち主のもとへ帰ります。
71BコンパチB’(ダッシュ)ミッションを搭載していますが、
これと同じ仕様のハコスカは他にはいるのでしょうか?
1か月ほど経ちましたが、ミッションやエンジンキャブの調子は良いようです。
前回の気になる点でやり残していたハコスカのクラッチの踏み込みが異常な粘りを見せるのでマスターシリンダーが怪しいとにらんでやはり交換です。
パーツはkpgc10用を新規購入です。
上が購入したKPGC10ハコスカGTR用ので、したが今まで付いていたGC10用です。
ラインの取りだし位置が異なりますが近いので少し曲げてやって取りつけました。問題なかったです。
クラッチのクレビスですが根元で亀裂が・・・
ここは溶接で補修です。
取りつけ穴も長穴になってしまっていますが、ここはこのまま行きます。
そしてもう一点やり残していたミッションメンバーインシュレーターゴムですが、ついでに交換です。
下段が今まで付いていたものですが、変形がひどいしなんか他のを流用しているものも有ります。
これを上段の正規品に交換で、室内への振動やシフトレバーのブレが低減できると思います。
2015年3月9日
このスカイラインはミッションを71BコンパチB’ βバージョンにした1号機ですが1年ぶりに戻ってきました。βーバージョンは71Bフランジタイプポルシェシンクロを全くケースは変更しないでフランジタイプのまま71Bの最進化型ワーナーシンクロに変更するもので、ペラシャフトも含めて一切変更が不要のパターンです。(中身は71Cでなく71Bワーナー)
運転してみましたがミッションは問題なく気持ちよくシフトできます。
今回は、突然エンジンが不調になってしまったということで、急きょ私のところへ再来したこのハコスカを見てみることに・・・・。
このハコスカは完全に紳士的な乗り物感を残していて、乗り心地もすごく良いです。振動や音も極めて少なく荒々しいところは良く押さえられています。 私の工房に入れてみるとS30よりかなり大きいことに改めて気が付きます。
さて、エンジンは後ろ側のSUキャブが原因のようだということは持ち主から聞いていたので、チェックします。
4・5・6番のプラグはかなり煤けています。かぶり気味ですね・