2024年8月16日
71A3分割 スペシャルγ49
ハコスカGTRのオーナーさんからこの71A3分割ポルシェミッションの修理を依頼されました。このオーナー様はR192デフも同時に修理を依頼してきましたので、駆動系刷新という事になります。
やり方としては71Aの弱点をすべて改善するγバージョンで、シンクロとしては純正そのままのポルシェシンクロをセッティングしてゆきます。
ミッションとしては純正の状態で丁寧に使われている感じがします。外観はもちろん適度なやれ感とオイル漏れが少しありますが程度としては良いほうです。
分解してゆきますが、この部分リヤエキステンションのベアリングが打ち込まれる部分ですがこのようにボコボコになっていますが、機能的には支障なさそうですが、前任者様はオイルシール打ち込み時に何か当て物をして打てばよかったと思います。
従いましてこのミッションは過去に一回以上はメンテナンスされたものと思われます。
ここ以外はケース側はシールやシムの欠損も無く丁寧に作られていたと思います。
オイルシールを取り外したらさらに残念なことが出てきました。赤矢印のところに4本も大きな傷が有ります。現状から見て前任者がオイルシールの交換の時になぜかはわかりませんがオイルシールの外周側からドライバーのようなものを打ち込んでこじってオイルシールを外した為ではないかと想像いたします。前の画像で分かるようにオイルシールの内側が大きな隙間があるので通常はそちら側からこじるのでその場合はこのような傷はできませんので、なぜこのようにしたかは理解が難しいです。ここ全体を交換するのは難しいので傷をある程度慣らして液体パッキンを大量に塗ってしのぐことになりそうです。
シフトレバーが取りつくシフトブロックの部分ですが、ドライバーで指している部分に本来は1mm厚の丸いベークライトのワッシャーが付いていてインシュレーターになっているのですが、欠損しています。これだとシフトブロックの横方向にガタが出ますのでシフトレバーのフィーリングが悪くなります。ベークワッシャーは経年劣化で粉砕されて無くなったのでしょう。
この部分の段付き摩耗も仕方ないですね。みんな多かれ少なかれこのように摩耗しています。ここはこのまま行くしか無いでしょう。
ギヤ部を取り出しました。
リヤ側です。
M38ナットはやはり当時、流行ったらしいネジ緩み止めのおまじないがされていて、ポンチ打ちとタガネ攻撃がされています。ほとんどの場合そんなおまじないは効果が無いんですが、今回はまだ緩むところまでは行かずしっかり締まっていました。
1速ポルシェシンクロはリング地肌が出てきていますので交換が必要です。
ほかのギヤについてはポルシェシンクロの状態は悪くはなかったです。
3-4速のシンクロスリーブ(シフトフォークが組みあう部分)は画像の様にフォーク爪が入る溝の部分に段付き摩耗が3速&4速側ともにかなり削り込まれて摩耗しています。これは交換が必要です。
1速の裏にあるワッシャーに丸い凹みが見られますが、形状的に右側に見えるボールベアリングの玉の様なパーツをずらして組んだためにできたのではないかと思います。現在はボール球は正規の位置にあるので、途中で気が付いて直したのでしょう。
メインインプットです。問題は無いかと思ったのですが、思わぬところに
赤矢印の部分、シンクロ舳先パーツがメインシャフトスプラインのところで周上3か所で溶接されています。もう加工してしまってあるので変えようがないのですが、今のところ品質は良さそうなのでこのまま行くしかありません。将来シンクロ舳先を交換したいという状況になったときには、シンクロ舳先だけでは交換ができませんので、メインインプット一式交換することになります。
組み立てに入ります。
1-2速用のパーツです。
1速のシンクロCリングを交換します。
Cリングを取り外したところですが、サーボをかけるキーパーツが片側(2速からのシフトダウン側)のみの設計となっています。71Aのこの時期のミッションではこれが通常の状態です。ところが中には1速のギヤの両回転共にサーボのついている仕様もございます。メーカ側でどのような仕様分けだったのか不明ですが、存在します。
私はここについてもご要望が有れば改造することが可能(両回転ともサーボがかかる)ですが、ここは必要に応じてという事になりそうです。1速はアクセルを閉じたアイドリングの状態でクラッチを切ってから、間を置いてシフトを入れるのが基本ですので、基本的にはシンクロは殆んど不要です。しかしながらニュートラルからアクセル煽りながら1速にシフトしたりすると現状のシンクロではギヤ鳴り(舳先鳴り)が起こりやすいと思います。
シンクロCリングを交換しました。
1-2速までのパーツ組です。
71Aは純正で2.9から始まるギヤ比で、これは71Bの240クロスとほぼ同じギヤ比で、現代でいえばクロスギヤという事になります。だけど71Aクロスとは言わないのはなぜなんだろう。
センタープレートに組みました。
次、3-4速のギヤ組となりますが、現状把握で見たようにシンクロスリーブのシフトフォーク爪が入る溝の摩耗が見られました。
左側の黒っぽいものが今までついていたもの。
溝幅を測ると7.4mmあります。ここは7.0が正規寸法ですので、片側で0.2mm摩耗していることになり、その分シフトストロークが多かったことになりますが、ここで0.4mmの誤差だとシフトノブのところでは3mmくらいの誤差(ガタ)となります。
また、この状態で使い続けるとこの摩耗はどんどん進んでいき、しまいにはシフトストロークがとんでもなく大きくなります。
今回は右側の代替品に交換してゆきます。
4速メインインプットのパーツです。
1-4速まで組み立てできました。
5速ギヤです。
メインシャフトのM38ナットが緩むとこの5速が大きく影響を受けて、スラスト面のかじり付き焼き付きやシンクロ抜けで空回りなどの現象になります。今回はM38ナットは緩んではいなかったので
5速の状態は良いです。
5速のメインシャフトカラーはこんな段付きができていましたので使えません。今回は5速裏スラストオプションを選択されていますので、そのオプションの中にこのカラーも含まれているので手順で交換できます。
そしてここはオプションの「5速裏スラスト」加工をして弱点の改善を行います。
ナットはサイドロックボルト加工をしたスカート付きの1体ナット右ネジを使います。
サイドロックボルトとスカートカシメを併用するのでM38ナットの緩み防止対策しては万全だと思います。タガネ攻撃やポンチ打ちなどのおまじないは不要です。
ギヤ部が完成
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ 0.12 0.21 0.29 ーーー 0.05
バックラッシュ 0.09 0.09 0.07 ーーー 0.15
バックラッシュが良い値で揃っているので、消耗が少ないギヤであることが予測されます。
シフトフォークの組付けですが、1-2速3点指示フォークオプションを選択されたので交換してゆきます。
シフトフォークを組みました。
リヤエクステンション
コントロールピンはシングルオーリングですが、今回はダブルオーリングに改造いたしました。画像取忘れです。
ダブルオーリング化改造です。
オイル漏れがすることが多いストライキングロッドのオーリングも2重化
シフトブロックの組付け
失われていたベークライトのワッシャーは私の手持ちから探し出してきて補いましたのでシフトブロックの動きがしっかりしてきました。
ミッションマウントが付いたまま送られてきましたのでそのままにしておきますが、ゴムのところに亀裂が入っているので再利用はしない方が良いです。
リヤエクステンションのオイルシール打ち込み面にひどい傷が入っていることは現状把握で確認していましたので、ここは強度のあるケミカルで補修しますが、完全とはいえないのでやってみるしかないです。
ベアリングを取り付け
シールの打ち込み
このところリヤフランジのナットの部分からオイル漏れがするという事例が有りますので、対策として矢印の部分にオーリング追加工しています。
40年間も経つとメインシャフトのスプラインとフランジのスプラインが瘦せてきてその隙間からオイル漏れするようです。
ミッションが完成して回転試験しています。
2500rpmで回して
シフト感・2重噛みあい効き具合
回転抵抗電流値
異音・異常振動
温度
騒音値
スピードピニオンの回転
バックスイッチ動作
オイル漏れ
等をチェックします。
問題なさそうです。
リヤエクステについているこのパーツはエア抜きです。純正品はプラスチックですぐに破損するのでこの金属製に交換しています。ゴムキャップにはピンホールを開けています。