2020年11月29日
71BコンパチC Ω29
レストアのページでご紹介している
デザイナーのS30Z 用のミッションを作ります。
現在の71Bミッションをおろしてみますと
内部のギヤの状態はこのように一見きれいに見えます。S130系のワーナーシンクロの中期タイプと思われます。
回転させてみるとベアリングボールが3個ぐらいすでに脱落してありません。これらの脱落した保持器残骸とベアリングボールはオイル交換の時に流出したのだと思いますが(今回のオイル抜きでは出てこなかった。又ドレンプラグのマグネットにも何も吸着されていなかった)、よくこの状態で何事もなかったことがおどろきです。実際、私もこの状態でテストドライブしているのですがこの異変には気ずきませんでした。人間の感覚がいい加減なのか、ベアリングが優秀なのかわかりませんが、オーナー様が今回ミッションが変だということを察知したのは素晴らしい感性だと思いますし、毎日乗っているからこそ察知できる強みだと思います。もう一個さらにボールベアリングが脱落したらミッションは完全に分解ロックしていたのではないかと思われるくらいぎりぎりの状態でした。
いつもの通り組み付けの入ります。
メインシャフトは残り少ない新品を使用します。
71Cの厚歯大径シンクロ仕様は中古ですがしっかりしたものを使い(新品にすることももちろん可能です。価格が一気にアップすけど)、シンクロやベアリングや、ニードルベアリングなどの消耗品は新品に交換してゆきます。2速ダブルシンクロです。
フロント側が組めました。Ωバージョンですから4速=メインインプットも大径ダブルシンクロで、純正71Cでも無かった仕様で、イーザオリジナルです。
これにより現代の高速主体の道路事情にマッチした、3速(Wシンクロ)-4速(Wシンクロ)間の頻繁なシフトを楽しくさせてくれます。
リヤ側の5速、バックも組みました。バックにもシンクロが付くバックシンクロタイプです。(71C系にはこの他にバックリンクタイプが有ります)
オーナー様の要望で5速でも加速力の有る、0.83ギヤ比のギヤ(これもなかなか有りませんよ)を使います。(オプション)
L3.1のフルチューンならトルクが十分にあるので5速0.75(71Cの定番)の方が加速が伸びますが、2400cc以下の場合や、5速でレッドゾーンまでめいっぱい引っ張る場合は0.83が良いです。(71Bノーマルの純正は0.86です)
リヤのバックシンクロ付き5速組
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ
0.26 0.14 0.20 ---0.13
バックラッシュ
0.10 0.26 0.20 ---0.09
ベストな値だと思います。
71Cのがっしりしたシフトフォークを取り付けました。これも71Cのシフトがしっかりとする大きな要因です。
2020年12月15日
71BコンパチC Ω30 OSクロス
ハコスカKGC10用にΩを作ります。
1-3速クロスですのでギヤは新品、メインシャフト、ハブも新品を使ったのでここまですべて新品です。
OSクロスは画像のように刃先の厚みがすごく大きく設計されています。歯車の形状は計算式で決められるので(創成歯車なのでおのずと決まる)同じなんですがその曲線のどこを取るか、つまり転移係数をいくつにするかで刃先の厚みは変化してきて、これがギヤの性能を左右します。刃先を厚くすると刃先は欠損しにくくなりますが、歯車がかみ合っている距離が短くなってギヤ面圧が増してゆきますので痛しかゆしの状態になりますが、ここの設計はそれぞれのメーカーの個性となりますね。
リヤ側も組んでギヤ関係は完了です。4速までWシンクロのΩバージョン。3-4ハブも新品使用しました。5速はバックにシンクロ付きの最終仕様で、高速が楽になる(回転数が下がる) 0.75ギヤ比(71Bは全て0.86) 5速ーバックのスリーブも新品。
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ
0.35 0.15 0.18 --- 0.14
バックラッシュ
0.25 0.25 0.15 --- 0.05
さすがにほとんど全部新品なので良い値です。
シフトフォークを組みました。
ケースに組む準備に入ります。
フロントカバーは純正新品を使います。ピボットは首の太い強化仕様。
ケースに組んで回転試験に入っています。
振動が少なく、回転抵抗も低くて良いです。やはりメインシャフトからOSクロスギヤ、ハブスリーブ、全ベアリングに至るまでほとんど新品で組んでいますので格段に滑らかな回転をしています。
シフトはもちろん問題なし。5速から真下のバックにストレートで入らないバックチェック機構付き。
シフトレバーブロックにはクィックシフト化できるように支点穴を追加しています。純正の場合は下側の支点穴を使ってください。クィックシフトにする場合はクィックシフトレバーが必要ですのでお申し付けください。
外観的にはウェットブラストしていますので新品のようにきれいになっています。
完成です。
2021年2月3日
71BコンパチC Ω31
ドライブシャフト・プロペラシャフト・時計修理・ソリッドオシレーター・ライトリレー・ニスモ44フルオーバーホール・ラジオアンテナ修理など継続的にご注文くださる方からご相談を受けました。
L3.0フルチューンですがミッションがうまく動かないので調べてほしいというご注文です。
分解に入っています。この時点ですでに雲行きが怪しいのですが、一度分解されているし、型式も当時の純正と言えば純正ですがポルシェシンクロのミッションです。
しかもシンクロリングは摩耗しきってもう金属地肌が広範囲で全周剝けている状態で、1速から4速までほとんどこの状態です。これではシンクロ作用はほとんど望めません。
そもそも発端はバックスイッチがうまく入らないという事なのですが画像右側に見えるバックスイッチカムの位置がフロントケースに対してちぐはぐであるのが原因でした。つまり、このミッションはかなり基本的なことを見落としたまま組まれたミッションと思われます。これではL型3.0フルチューンエンジンがかわいそうですので、私のΩバージョンで組みなおします。
リヤ側からM38ナットは少し緩んでいる状態で大丈夫かなと心配したのですが、M38ナットの前のスラスト受けワッシャーですがこんな状態です。焼き付き寸前。
5速の反対面、上記のワッシャーとスライドする面はスラスト受け面がもう焼き付きが始まっていたことがうかがえます。これだと5速からギヤが抜けにくくなっていたはずです。又この時は5速以外はギヤが入りにくくなっていたはずです。これはポルシェシンクロで頻発する5速の焼き付きの弱点の典型例です。
5速のスラスト面反対側、焼き付き寸前。これではすでに実走行では相当に違和感が出ていたはずです。
そしてそこと接する5速ハブも同じく焼き付き寸前。
リヤ側のギヤ組は全滅ですね。
前側に行ってメインインプット
こんなにポルシェシンクロが摩耗しているのは久しぶりに見ました。
3速、ここまで摩耗しているのは私が見た範囲ではチャンピョンクラスです。
このミッションは全体的にいえばほとんどシンクロ関係は全滅です。どうしようもなくなって車から降ろしておいたものではないかと思います。オークションなどでも今まで車に付いていましたなどの表記のあるものでもこのような個体が無いとは言い切れないと言わざるを得ないのが現状だと思います。
組み付けに入っています。
71BコンパチC Ω31 となります。
メインシャフトは純正新品
もちろんベアリング類は新品交換です。
1速、2速そしてハブ・スリーブ
シンクロとニードルベアリングは新品交換
1速、2速側組みました。
71Cは71Bに比較して非常にギヤの厚みが厚くなっています。メインギヤ、カウンターギヤ全パーツ厚くなります。これによりギヤの接触面積が増すので単位面積当たりの駆動荷重が分散されます。逆にいえばより高い駆動荷重=馬力に耐えれる ということになります。ノーマル馬力に使用した場合は相対的にギヤ駆動時の摩擦力が下がるため、滑らかな静かな回転の運転を得ることができ、燃費向上や長寿命となる効果があります。
3速は71Cの純正新品
3速-4速のハブ・スリーブも71C純正新品
4速=メインインプットです。
ここがΩバージョンの証、純正の71Cの仕様にも無かった4速ダブルシンクロです。
目ざとい人はギヤの中のメインインプットニードルの径が太くなっていることに気付くでしょう。71Cの最終型ではここに改良が加えられました。
ギヤ組が完成
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ
0.30 0.15 0.21ーーー0.22
バックラッシュ
0.06 0.08 0.05ーーー0.05
素晴らしい値です。特にバックラッシュ。これはギヤの精度ももちろん関係が有るのですが、今回もっとも変更したところは次のところです。
ギヤ精度測定時、画像に見える仮のセットプレートを製作して模擬的にケースに組んだ状態を再現して各ギヤ精度を測定しています。いままではメーカーの整備解説書の通りこの部分はフリーのままで各精度を測っていたのですが常々ばらつきがあるなと思っていたのですが、今回思い切ってこの高精度のセットプレート(各部の径精度と芯間距離精度は±0.02以内です)を設計製作してばらつきなく正確に精度測定ができるようになりました。いわばe-za式特殊工具となります。
3-4速シフトフォークは純正新品。71Cはこんな塊がシフトフォークです。アルミ製
シフトフォークが全部組まれました。
ケースに組んでいきますが、フロントカバーは純正新品使用します。
ほとんどの方が分解をあきらめてしまうリヤエクステももちろん完全分解して3か所あるオイルシールを交換します。リヤエクステを分解する意味はそれ以外にコンパチ化するためにどうしてもしなければならない加工を加えるためでもあり、ここが分解できないと正確にはコンパチ化はできません。
ケース組して回転試験しています。今回は特に回転抵抗が少なく音、振動共に少ないレベルです。外観が最初の状態から比較すると全く別物ですが、ウェットブラストかけたためです。ブラスト系を研磨メデイアの入り込みを嫌って避ける人もいますが、ウェットブラストではたとえ入ってもガラス玉素材だし、その前に私はほぼ完ぺきな密閉治具を作ってブラスト液の入り込みを完全に遮断することをやっています。ガムテープを何重にも張って密封などしてもすぐに取れてしまうので、アルミ素材+ゴム板で密閉蓋を作ってボルト締めで遮蔽しています。
2021年2月10日
71BコンパチC Ω32
ハコスカオーナー様から4速までダブルシンクロのΩバージョンをご依頼いただきました。
作り方は前記とほとんど同じなので、要所のみ記録にとどめます。
メインシャフトは日産純正を準備しました。
フロント側を組みました。3速-4速のシンクロスリーブは新品に交換。
Ωバージョンは4速=メインインプットのシンクロがダブルシンクロとなるため、画像のようにシンクロ舳先に4カ所丸小穴が開いているのが特徴で、ここにダブルシンクロのセンターリングの足が入ることで回り止めしています。
サクサクと組んでギヤ部の組み付け完了
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ
0.30 0.15 0.22ーーー0.28
バックラッシュ
0.18 0.24 0.07ーーー0.08
5速のエンドプレイが若干大きめですが問題ないかと思いましたが、やはり気になってやり直しました。5速のエンドプレイは0.09に改修しました。
今回も外観的にはウェットブラストをかけたのできれいです。回転試験を実施しました。
シフト・回転共に問題ないと思います。
完成です。