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71BコンパチC Ωバージョンは71Bミッションの中身を71系最終バージョンの71Cに入れ替えて性能回復を図るバージョンです。Ωバージョンは純正でも存在しない4速まで強烈なシンクロのかかるダブルシンクロとするバージョンです。バージョンとしてΩ、α、β、γ各バージョン×クロス組バージョンが有ります。
2023年3月27日
71BコンパチC Ω54 Z432
東京のZ432 S20エンジンのオーナー様からミッションの刷新を依頼されました。S20エンジンの場合、ミッションの改良での選択はかなり限定されます。なぜならS20エンジンが非常に特殊であるためです。対策としては大まかには次の2択となると思います。
1)ケンメリ2分割71Bのフロントベルハウジングを入手あるいは復刻版を入手して71Cの中身にする。この場合プロペラシャフトをスプライン差し込みタイプにして、シフトレバーも71B仕様にする必要があります。(補足:厳密にいうとケンメリベルハウで中身71Bのポルシェ仕様にすればプロペラシャフトはフランジタイプのままでもOKです。さらに補足すると私はこの71Bポルシェシンクロをワーナーに組み替えるサービスもやっております。つまりコンパチ βバージョンです。しかしどうせやるなら71Cにするでしょう!)つまり、ケンメリ2分割ベルハウがあればどんな仕様にも組み換えすることを私はやっていますが、その中でベストはΩバージョンとなります。
特に、S20エンジンの純正の中間にスライドが付いているフランジ結合ペラシャはとかく振動発生源となりやすいので、変更改善したほうが良いと思います。
2)ケンメリ2分割ベルハウは非常に希少で価格が高い(おそらく実勢80万円)ので(復刻版も税込み33万円と高額です)何とかならないかと私が考え出した方法が、71A3分割のままでシンクロをポルシェからワーナーに組み替える(1~4速)というɤバージョンで、こちらだと改造が最小限で済みます。シフトレバーももちろんそのまま使えます。ペラシャはスプライン差し込みまたはフランジ結合どちらでも選択できます。性能としては71CのΩバージョンには及びませんが、ポルシェシンクロの気難しさからは解放されて楽しいドライブができるようになります。(ɤバージョンはS20エンジンンのみならず同じく選択の余地が限られるSR311系でも適合です)
という事で、今回のオーナー様はケンメリ2分割ベルハウを使ってのΩバージョン化を選択されました。画像が復刻版です。外観的には復刻当初よりはかなりきれいな外観になってきています。鋳肌を見る限りダイキャストではなくロストワックスを使った砂型鋳物の様な作り方ではないかと思います。
切削面も鋳物出しの範囲内でリブなどに食い込むことなくきれいに削れています。(当初はかなりリブへ加工が食い込むことが多かった)全体的にみると鋳物厚さを最小限に近くコントロールして熟成されてきている感じが見て取れます。
重量は7.8Kg
いつものようにΩバージョンの製作に取り掛かります。
1-2速の構成部品
流用部品の状態を見ながら新品交換が必要なところは交換してゆきます。この中でも特にハブスリーブは新品にしています。ほかの消耗部品は無条件で交換していきます。
1-2速を組付けました。
71Cの厚歯ギヤと大径のシンクロ、2速のダブルシンクロと71Bとは比較にならないほどしっかりした造りになります。
そして3足の部品です。
ここもハブスリーブは新品を使用します。
そして4速、メインインプット。
ΩバージョンのΩバージョンたる所以のところです。
通常の71C純正はすべて大径ではありますがシングルシンクロリングとなりますが、私の作っているΩバージョンは純正でも存在しない大径ダブルシンクロリングで作り上げます。
もうこの時点で純正とは全く異なる状態にあります。
先ず、内側のシンクロリングを組付け。
この後画像取り忘れましたが金属のアダプターを画像に見える4か所の穴に足が入るように組付けます。
そしてその上から外側のシンクロリングを被せます。
このリングは内側に出ている6か所の爪で内側のシンクロリングと噛みあわされます。これでダブルシンクロとなりシンクロ作用面の面積が2倍に増すことで強力なシンクロ作用を発生することができます。
もう4速メインインプットは組付けられています。
そして71Cのこれも一つの特徴であるチャタリング防止シザースギヤ(電動のこぎりの歯の様な薄いギヤ)を取り付けます。チャタリングとはアイドリング時にカタコトカタコトするミッションの回転音ですが、この音はミッションのギヤバックラッシュがある限り必ず発生するものです(ギヤ歯がひどく摩耗するとこの音はどんどん大きくなってきます)が、このシザースギヤによりある程度その音を軽減できます。
シザースギヤは取り付けるカウンターギヤ4速より歯数が1枚多く作って有り、よって生じる回転差で発生する摩擦力でチャタリングにブレーキを掛けます。カウンター4速の前面がすごく光っていることでもその摩擦度合がわかりますね。
1-4速まで組付けました。
5速の部品です。
私の作りだしたコンパチCミッションは5速のギヤ比は純正の0.75とオプションの0.83が選択できるようにしています。純正の71Cは0.75となっておりこれは、71Cが良く使われていたRBターボやSRターボなどでトルクが上がったことに対して高速でエンジン回転を上げずにクルージングできるように設定されたギヤ比です。従ってL型でもL3.0やL3.1に排気量アップした車体ではこのギヤ比が適します。
しかし、今回のように高回転型のS20エンジンでは0.83ギヤ比の選択で高速でもトルク負けすることなく走れるのでこちらのほうが良い場合が多いです。
また、サーキットなどで高速走行する必要がある場合はギヤ比のつながりのスムーズな0.83ギヤ比が必要となります。5速でぐんぐんと加速してゆく必要がある場合でもトルクにまだ乗っている回転数で加速することができます。
ここがコンパチCのもっとも大きな特徴である
「 5速裏スラスト 」です。71系ミッションは71Aの時代からこの部分の焼き付きに悩みました。71系ミッション故障の大部分はこの部分が関係しているといってもよいのではと思います。71BコンパチCミッションにするとこの部分に画像のようにスラストニードルベアリングが構築されますので、この部分の欠点を一掃できます。
ミッションギヤ組が完成しました。
71Bと比較してすごくがしりとした印象を受けます。これで重量がすごく増すかというとそうでもないです。ミッション全体の寸法は同じなのでクリアランスになるようハブスリーブの厚みで調整していますのでトータルはほぼ同じになります。バックはダイレクトです。
ギヤ組の精度確認です。
画像のように私は精度測定時はフロントベアリングにダミーのミッションケースの様なプレートを取り付けて測定します。そうでないとギヤ精度はばらついて測定が難しくなります。
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ
0.33 0.15 0.16 ーーー 0.22
バックラッシュ
0.13 0.22 0.12 ーーー 0.09
良い値にできたと思います。
シフトフォーク・シフトロッドの組付け
1-4速のシフトフォークは71cのアルミ製となりますので、シフト時のフォーク剛性が上がりかっちりした感触になります。1ー2速のシフトロッドは71BのΦ14からΦ16にサイズアップしてこちらも強化されます。
5速はオーナー様のご希望で0.83ギヤ比のオプションで組みます。71Cで普通に組みますと0.75というギヤ比になります。M38ナットがサイドロックボルトで完全に回り止め対策されていることがわかります。
一気にケースに組みました。フロントベルはケンメリGTR復刻版の71Bケースです。かっこいいです。リヤエクステは71Bの中からこのバックシフト誤操作防止機構が付いたリヤエクステを準備いたしました。
この状態で回転試験いたしましたが運転状況は素晴らしい状態です。今までの最高の状態だと思います。回転抵抗がものすごく低い値です。
上からの画像
フロントベルハウジングの状態
新品ですからもちろんまっさらです。
フロントカバーは新品を使いました。
シフトブロックのところ
シフトレバーを取り付ける支点穴を上方に一か所、追加工して、私の作っているクイックシフトを後々取り付けたい場合の為に予備的に加工してクイックシフト化できるようにしておきます。通常は純正シフトレバーを画像のこの下側の支点穴位置に取り付けます。
Z432・ハコスカGTRともに純正の71A3分割ポルシェシンクロからケンメリ2分割(復刻版)71B・71Cワーナーシンクロに変更するとプロペラシャフトをスプライン差し込み式に交換が必要です。(厳密にいうとケンメリ2分割71Bでもポルシェシンクロのフランジ結合にしておけばプロペラシャフトの変更は不要ですが、わざわシフトのしずらいポルシェシンクロで、振動発生源となる中間スライド式のフランジ結合プロペラシャフトにすることもないでしょう。)
プロペラシャフトをフルオーバーホールして準備しています。
このプロペラシャフトについて44.45年式のデフに後退角がついている(デフが35mm前方に位置している)車体はこの後の世代のプロペラシャフトに対して35mm短いものが必要となります。
今回の車体は47年式という事ですので通常の長さのプロペラシャフトで適合するはずです。
プロペラシャフトを組み上げました。
同時にシフトレバーも71A3分割のゴムブッシュ式から画像の71Bタイプのシフトレバーに交換が必要になりますので準備です。
これで Z432のS20エンジン用ケンメリタイプ2分割ミッションへ(私はこれをS20エンジンの魔法の箒と名付けています)載せ替え準備が整ったことになります。
2024年3月28日
Z432用デフ R180 R39
1年ぶりになりますが東京のZ432オーナ様からケンメリ2分割ベルのΩバージョンミッション・プロペラシャフトに引き続きデフの刷新のご依頼です。
ギヤ比が現在が4.444であるという事ですの
今回はスバルのR180純正を流用することにします。スバルのR180は4,444であることが多いです。
素材デフを全分解しています。
これはLSD画像 スバル純正です。
4ピニオンです
カム角も街乗りに適するこの角度です。オーナー様から街乗りで快適に走れるようにしたいというご要望ですので、この仕様で良いと思います。
片側6枚構成でスプリングプレートは1枚で、渦巻きプレートの使用ですが、イニシャルは6Kgありますのでちょうど良い感じだと思います。
ピニオンプリロードはこの画像の前に調整しています。ピニオンプリロードは14Kg
サイドベアリングプリも調整していますが1.6kg
バックラッシュは0.10~0.13と良い値に調整してきました。
刃当たり正転側 ど真ん中です。
逆転側 これもど真ん中
スバルデフは製造が新しいし、それほど距離を乗っていない場合が多いのでデフがしっかりしています。
サイドフランジです。
シールを打ち込みました。
その後、亀有で売られている強化コンパニオンフランジを取り付けます。スバルデフにした場合サイドフランジのシャフト径が異なるので日産純正サイドフランジは取り付けができません。スバルのほうがシャフトが太くなるので結果的に強化されたことになります。
ピニオンフロントベアリングを打ち込みます。
ピニオンフロントシールを打ち込みます。
コンパニオンフランジを取り付けましたがこちらは日産純正で大丈夫です。ただカメアリからは強化というものも発売されています。
これで完成です。
この後回転試験を実施します。
引き続きドライブシャフトのオーバーホールを実施します。ばらばらにしてから艶消し黒で錆止めします。
オーバーホールで使用するパーツは画像のようです。
組み立てている途中です。
ボールスライドの部分をグリースアップしてゴムブーツを取り付けて金属バンドで固定しています。
金属バンドを2周回してからこの結合部で折り返して固定するのですが、この折り返しをただ折り曲げてつぶしただけのものが最近多く見かけます。
日産の正規整備要領書ではこの画像のように折り返した端を丸めてバンドの下にくぐらせるという事が正規のやり方で書かれています。画像で左側の丸く折り返しているところがその部分でこの中に3mmくらい押し込んでいます。その後、止めのポンチを打つのですがこうすればめったなことではバンドは緩みません。
この後十字ジャーナルを最初に分解したときの逆で組んでいきます。分解する前に全部のパーツには組み合わせのポンチマークをうっているのでそれが元どうりになるよう組みます。
2023年9月25日
71BコンパチC
Ω55ークロス
群馬のショップさん経由でコンパチC Ωバージョンクロスギヤ組ケースブラストでオーダーいただきました。
メインシャフト
純正新品を使います。
亀有クロスギヤ 表面潤滑化処理がされているので真っ黒です。
と組み込むパーツ類
S30Z系では
L20 4速車は3.5から始まる低速重視のギヤ比
L20 5速車は3.3から始まる少しスポーティーなギヤ比
240Z は2.9から始まるいわゆる240クロスです
L28 は普通の3.3のギヤ比に戻ってしまいます。ジェントルな乗り味のL28に合わせたと思われます。
亀有クロスは2.4から始まるクロスギヤです。
でもスポーツ性という事を考えればL28も2.9から始まるギヤ比が向くと思うのです。
ましてやL3.0・L3.1・L3.2などにしてチューンしたりすれば3.3ギヤ比ではますます1速が窮屈になってしまいます。実際のところ通常ギヤ比では4速に入れたままほとんどチェンジしないという事もあるのでは。
クロスギヤというとスタート時のクラッチミートが難と思っている人もいると思いますが、それは私の考えでは40年前の当時の大きな勾配の道路がたくさんあった道路事情ではそういう事もあったでしょうが、現代の道路はくまなく整備されており、快適な高速を走ることがほとんどの状況ではクロスギヤでも全く問題はないと思います。OSツインなどのスポーツクラッチにすると少しクラッチミートは難しくなりますが、半クラの幅が狭くなるだけでやり方は同じでできます。
1-2速ハブスリーブです
これも純正新品
1-2速まで組みました。
3速です。
ここもハブスリーブは新品を使います。
Ωバージョンですので4速=メインインプットはダブルシンクロとします。
ダブルシンクロたる所以は画像のように内側の金色のシンクロリングにシルバーの4本足付き(丸い穴に入っている)の中間リングがかぶってきます。
その上に外側のシンクロリングがかぶり、内側に6か所ある爪で内側のシンクロリングと連結します。つまりダブルと言っていますが実際には3パーツで構成されています。世の中にはこれをもう一重重ねたトリプルシンクロというのもあるのですが驚きです。それだけこのシンクロがマニュアルミッションには重要だということですね。
ギヤをすべて組みました。
リヤ側は71系としてはコンベンショナルな0.75ギヤ比のワーナーシンクロです。スムースなST歯
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ
0.25 0.13 0.19 ーーー 0.28
バックラッシュ
0.20 0.18 0.25 ーーー 0.15
全体的に規格内の中で大きめの値ですが値が揃っているので精度はうまく出ていると思います。
71Cミッションでの特徴の一つはこのカウンターギヤの前に付くシザースギヤでしょう。画像を良く見るとカウンターギヤの前に少しずつ歯がずれながら薄いギヤが取り付けられていますが、これがカウンターギヤと差動することでギヤのチャタリング音を削減する効果があります。アイドリング時にガコガコするあれですね。
シフトフォークを取り付けました。
3-4そくのシフトロッドとシフトフォークは新品を使いました。
今回はケースに組むところの画像を取り忘れまして一気に発送用梱包の場面になってしまいました。
この梱包はリターナブルコンテナーのようになっていまして、すでに何十往復もミッションを運んでいます。
固定としてはミッションマウントのところでネジ止めしてありますのでそれだけで全く動きませんが、念の為に黄色のバンドで補助的に押さえています。
書類の様なものはミッション取り付け時のお願い事項等が書いてある書類となります。
ミッションケースはウェットブラストを掛けていますので全体が新品のようにきれいなアルミ地肌で光っています。
これが発送時の状態です。
今まで見てきたように木製のラダーフレームにミッションマウントボルトで固定して、その状態から上箱を被せて黄色いバンドで固定しています。したがって黄色のバンドを外してミッションマウントボルトを外せばコンテナから取り外せますのでほぼ10分ほどで開梱できます。梱包資材を無駄にしない方策です。
このコンテナの概念を理解できずに今までの箱型コンテナの既成観念から脱却できずにこのコンテナの釘を抜いて開梱しようとしたところが有りまして、それ以来コンテナの上面に「釘を抜くな」と注意書きをするようになりました。繰り返しますが黄色のバンドを外せば上箱が取れます。