ハコスカGTR,S20エンジン,71A3分割,R192,ポルシェシンクロ,

2023年5月4日

71A3分割スペシャルγ41

千葉県のハコスカGTRのオーナー様からこの駆動系一式のオーバーホールの依頼です。

 

ミッションはS20エンジン専用71A3分割ポルシェシンクロ仕様で、フルオプションを実施する完全バージョンのご希望です。

デフはこれもS20エンジンご用達のR192

後はハコスカ特有の長ーいプロペラシャフトで純正仕様のフランジ結合タイプでオーバーホールです。

 

今回も長い闘いとなりそうです。

 

どのパーツも時代相応の汚れは有りますが、外観の程度的には良い部類に入ると思います。

特にプロペラシャフトはすごくきれいですが、ジョイントについては少しガクガク感があります。

クラッチハウジング

酷い油汚れやディスク摩耗粉も少ないです。

この後分解してゆきます。

まずこのフロントベルハウジングを取り外した時点で左側のベアリングの上にあるべきスラスト調整シムが入っていません。どっかに張り付いているのだろうとあちこち探したのですがやはり見つからなく、初めから入っていなかったようです。

リヤ側のフランジが固定されるメインシャフトのこの部分、Eリングの前にベアリングを受けるワッシャーが入っているはずなのですがこれも見つからず。ま、ここはベアリングをEリングで直接受けるようになるだけなので問題は少ないですが。

ギヤを取り出しました。

この時点で外観で見る限りでは大きな問題はなさそうでギヤ類の外観は程度が良さそうに見えますがバラバラにしてみないとわからないところです。

よく緩みが多発するM38ナットですが回り止めワッシャーで固定してあり、ダブルナットですのでこの時点での緩みは見られませんでした。

1ー2速のシフトフォーク

段付き摩耗が出ています。

耐摩耗金属の溶射は完全に削れてしまい金属地肌で動いている状態ですが、これだとどんどん段付き摩耗が進行してゆきます。

3-4速シフトフォークはかなりひどく摩耗が進んでいます。

今回の特徴的なことはこの5速のシフトフォークも段減りしていることです。私が見てきた中では5速のシフトフォークは殆んど段減りは見られなかったです。

また少し戻ってこのM38ナットですがやはり当時はやっていたM38ナット緩み止めのおまじない「タガネ攻撃」がやってありますね。私はこれがどうして緩み止めになるのか理解ができないのですが。

5速のシンクロリング

まあまあ良い程度の範疇にに入ると思います。

現在5速のポルシェシンクロの新品は完全に手に入りませんので、中古品を探すしか手立てがないのでここは重要です。1-4速のポルシェシンクロはまだ新品が入手可能ですが15800円/1個ととんでもなく高額になってしまいました。

5速のスラスト受け面

うっすらとかじり付きが出てきています。

かなり深刻なダメージだと思います。

出来たら交換したいところです。

5速のスラストを受けるハブですがこのように焼けが出るほどカジリ摩耗がひどいです。これはもう使用不可状態ですね。

メインインプットのシンクロ

きれいです。

3-4速シンクロハブスリーブ

問題はなさそうです。

良く三角形のハブの角の両サイドにスリーブの欠けが頻発するのですが、これはOKです。

3速シンクロ

ここはうっすらと金属地肌が出てきていますので、交換時期だと思います。

3速のスラスト受け面

かなり激しいカジリが見られます。

修理できるかどうか微妙なところです。

1-2速ハブスリーブ

欠けや破損は見られませんが、スリーブの舳先が丸まっており、これではシフトが入りずらくなります。

三角形の頭に丸まりが出ています。

この丸まりが抵抗となってシフトが重くなります。

メインシャフトの3速側

やはりうっすらとカジリ傾向が見られます。

カウンターシャフト

特に異常は見られません。

カウンターの矢印のところに変な段付きが有ります。どうしてこうなったかは不明ですが直径を測っても大きくなっており、ここが垂れていることがわかります。

修理と組み立てに入ります。

メインシャフトはこのように焼き付き気味ですが、メインシャフトの代替は無いので何とか修正してゆきます。このスラスト面は3速を受けているので3速もダメージがあるはずです。

できるだけやすりでひどい焼き付き部を取り除き、その後サンドぺーパーで次第に面を整えてゆきますがこれくらいがいっぱいです。

3速ギヤを確認するとこの面が見た感じではサンダーでちょこちょこ削って慣らして修理してあるようです、面がぼこぼこしているのがわかります。これではかじってしまっても不思議はないです。このギヤはこれ以上修正することは不可能なので廃棄するしかありません。

残り少ない手持ちのストックから3速ギヤを探し出しました。右側の状態が正しい状態です。

これは現在以上に価格がアップしているポルシェシンクロのCリングですが、よく外側の摩擦面の摩耗が云々されるのですが、内側の摩耗ももちろん性能に影響が出てきます。

このようなところを見るとますます内側面がサーボ力を発生するために働いていることがわかります。

ここに接触するパーツがブレーキバンドという部品で画像のように摩擦で面が光っています。ブレーキバンドという名のとおりドラムブレーキのブレーキシューの様な働きをしていて、シンクロにサーボ力を与えています。ポルシェシンクロCリング交換時はこのプレーキバンドもチェックして交換します。

シフトとしたときにミッションの内部ではシフトフォークがこのシフトスリーブを押すことでギヤを繋いでいますが、左の今回のスリーブは内周のギザギザしたシンクロ舳先がとがっていないで少し平面ができています。シフトミスした時ガリッと音がしますが、その時にこのシンクロ舳先の先端がこのように破損していきます。

左のように舳先にもう平面ができてしまっていますがこれだとシフトした時この面が相手につかえてシフトが重くなります。無理に押せばそのまま面が引っかかったまま外れないため、シフトフォークに無理が生じます。右側がある程度状態の良いシンクロ舳先スリーブで、今回はこちらに交換です。

又、スリーブに多い問題がこのシフトフォークが押す面がこのように段付き摩耗してくることです。本来はこの段付きは無く運転しているうちにここが削れてしまったものです。このようになるとシフトストロークがやけに増えてきたなという感触になります。しまいにはギヤの噛みあいが中途半端になり頻繁にギヤ抜けするなどの事が起こってくることでしょう。

1-4速までいろいろ対策しつつ組み込み完了です。カウンターベアリングをこの後打ち込みます。シンクロCリングもすべて新品に交換。

5-Bのハブは左側のように激しくかじりついて段差までできていますのでほぼ修正不可能です。ここも私の残り僅かなストックから代替品を探し出してきました。

当然これと相対する5速ギヤのスラスト面もこのとおり焼き付き気味。

71Aの5速ギヤはかなり特殊で手持ちの代替品もありませんので、これを修理するしかありません。

できるだけ修理しましたが、これくらいでいっぱいです。あまり面を削りすぎるとスラストクリアランスが規定値を超えてしまいます。

ギヤ精度

 1st  2nd  3rd      5th

エンドプレイ

0.10 0.18 0.21 ーーー 0.14

バックラッシュ

0.07 0.07 0.06 ーーー 0.15

シフト系の組み立て

シフトロッドとシフトフォークの組付けです。2重噛みあい防止機構とか、シフトクリック機構も組んでいきます。

今回はまず5-バックのシフトフォークがNGでした。右側が今までのフォークで、これを左側(中古良品)へ交換します。爪のところの段べりと銀色の対摩耗材の差がわかります。

1-2速フォーク

右側の3点支持フォークに交換してゆきます。

爪はこんな感じで段べりしています。

今回は通常は変更しなくても済む3-4速のシフトフォークも消耗がひどかったので、こちらも3点支持フォークに交換です。結局フォークは3個ともに交換となりました。

リヤエクステンションです。71Aではここが泣き所でオイル漏れやシフトリンケージの消耗が多く発生します。

シフトコントロールピンにはオーリングが付いているのですがこの個体ではオーリングが真四角に固まってしまっています。40年前のかな・・・・

しかもピン歯は水が入ったのか真っ赤に錆びてしまっています。2本の内1本は使えないレベルでしたので交換です。

ハコスカ特有のシフトコントロール部分です。左右に張り出したステーはなにに使うのか私は知りません。取り外しても問題はないのですが、この板厚分シフトコントロールのスプリング押し量が減るのでシフトの左右方向への振りが楽になります。この個体ではその部分にさらに3mm厚のスペーサーが入っていましたのでさらにシフトコントロールスプリング力は弱くなっています。

シフトストライキングロッドのここのオーリングは2重になるように変更しています。シフト前後ストロークのたびにここからオイルがにじみ出してくるので最もオイル汚れが発生する元凶となっているところです。