2024年10月16日
ハコスカGTR用
71A3分割スペシャルγ52ーW
新潟よりハコスカGTR用ミッションとしてご依頼されました。仕様としては71A3分割で可能なすべてのオプションと改善項目を織り込んだフルバージョンで仕上げて欲しいとのご依頼です。
従いまして71A仕様で最も大きな改善仕様となるシンクロをポルシェシンクロからワーナーシンクロに変更するγーWバージョンが前提となります。そのほかの5速裏スラストとか3点支持フォークとか、オイル漏れ防止改善点とかすべて織り込むことになります。
分解しだしています。
S20エンジン特有のフロントベルハウジング
これも今となっては非常に貴重です。
S20エンジン用として現在はケンメリGTR 71B 2分割ベルハウジングが復刻されていますのでそれを使うと71BコンパチC Ωバージョンが組めるのですが、それとは別の意味でこの純正オリジナルの当時物フロントベルを使う方法も非常に貴重だと思います。しかも中身はワーナーシンクロにするのですからシフトもやり易くなってきます。
おっと、このベルハウのねじの1か所がネジ山が半分ズル剥けているところが見られます。ここはやはりヘリサート修正が必要と思います。
フロントベルハウジングを外すと、センターケースが出てきますが、このようになってしまいました。
というのは、通常はこの中央に有る筒状のパーツ=通称天狗の鼻はフロントベルハウ側に残るべきものなのですが・・・。
このように外れてきてしまいました。元々の状態ではこのパーツはフロントベルハウに打ち込みとなっているのでこのようには外れてきません。
長い年月の間に打ち込みが緩んでしまったのでしょう。このようになると打ち込み隙間からベルハウ内へオイル漏れするようになります。
リヤエクステのこの部分もおなじみの状態になっています。
シフトの前後ストロークを受け止めるため、このように段付き摩耗ができています。ここは治すのは難しいです。(交換するしかないですが、もはやなかなか良品は有りません)
バックギヤはお決まりの摩耗状態です。これでもバックにシフトはできるにはできるのですが、何回かやり直してやっとバックに入るという感じだったと思います。これは修正か交換したほうが良いでしょう。
ギヤ部分も分解しました。
しかしこの中にいくつか問題が発見されました。
3-4速シンクロスリーブですが1歯欠けています。
あまり調子のよくなかったポルシェシンクロでよく見られる破損です。もうこの理由については何度も考察していますので省きますが、大きな理由はシフトフォークが2点支持であることです。
今回はシンクロをポルシェからワーナーに変更するので幸いなことにこのパーツは使わないので明代にはなりません。
しかしながらこちらの破損はかなり深刻な問題です。
カウンターシャフトですがスプライン部が途中で模様が変わっていることがわかると思いますが、本来はこのようではありません。
想像ですが過去にM38ナットが緩んでいた時期が有ってその時に5速カウンターギヤがガタついてこのようになってしまったのではないかなと思います。
拡大するとこんな感じで完全に5速カウンターギヤが食い込んだ跡ができています。もうスプラインとしては厚みが1mmぐらいしかなく、あと少しでズル剥けする感じです。このカウンターはとても再利用はできないですが、カウンターギヤはミッションの中で最大のボリュームを持つパーツですので大きな影響が有ります。
ここに取りつく5速カウンターギヤのスプラインは大丈夫だろうかとみてみるとこちらは全くなんともなっていません。M38ナット緩み→5速スプラインがたつきとなったときにこの5速ギヤは交換したものかもしれません。
組付けに入っています。
1-4速は今回は純正のポルシェシンクロから、ワーナーシンクロに変更してゆきますので各ギヤを準備します。
スプラインが摩耗して使用不可だったカウンター(画像下)の代品として71A純正5速用カウンターギヤ(画像上)を探し出してきました。純正新品を日産部品に買いに行ってももちろん出てきませんので、私の手持ちのドナーから抽出するしかありません。
1-2速まで組みました。
この状態ですでにポルシェシンクロとは異なる黄金色のワーナーシンクロが目立ちます。もちろんシンクロを換えたただけではなく関連パーツはすべて組み換えとなります。
1-4速まですべてワーナーシンクロで組みました。
リヤ側へ行って5速ですがここは今のところポルシェシンクロしか選択できません。今までも散々いろいろ考えトライしたのですが、71Aのカウンターのリヤスプラインのサイズが特殊なためどうしてもワーナー化の方策が見いだせませんでした。
5速裏のニードルベアリング構築とシングルスカート付M38ナットへ変更してゆきます。
サイドロックボルトとスカートカシメを併用していますのでこれでM38ナットはまず緩まないと思います。
スピードウォームですが71Aには歯数がこの画像の5Tの物と6Tのものが有ります。今回送られてきた素材は5Tでしたのでそのまま組みます。
シフトフォークを組んでいきます。
1-2速は3点支持フォークに組み替えます。
3-4速は今回構成上通常のフォークで組みます。
ワーナーシンクロにするとシフトの重さが格段に軽くなるので2点支持でも問題は出にくいです。
ギヤ精度
エンドプレイ
0.07 0.14 0.25 ーーー 0.10
バックラッシュ
0.06 0.09 0.12 ーーー 0.09
3速のエンドプレイが大きめではありますが、規格内で問題は無いと思います。
シフトロッド系を組みました。
リヤエクステンションのシフトコントロールピンを外しましたが、71Aロングには珍しくシフトコントロールピンにオーリングが有りませんでした。
右が今までついていたピンで、左が改造したピンでオーリングを2重でかけています。
リヤエクステンションのストライキングロッド穴のオーリングは2重化してゆきます。ここはシフトのたびに常にスライドするので、オイルが漏れやすいところです。
ミッションセンターケ-スですが打こんがかなりあります。何でこうなったかはよくわかりません。
こんな感じであちこちへこんでいるのですが、幸い凹み深さがそれほど深くないので、液体パッキンと紙シールを併用するので何とかなると思います。
リヤエクステのベアリングを打ち込み、オイルシールを打ち込みます。
シフトブロックのコネクトピンですが右が今までついていたものですがかなり摩耗が見えます。今回中古在庫を持っていたので左の摩耗が少ないものに交換します。
ここのピンですね。ここもシフトのたびに動くところなので摩耗しやすいところです。
フロントベルのM10ネジが1か所ズル剥けていたのでヘリサートを打ちました。これも失敗すると代替がつかないのでビビりながらやります。
ブラストしたケースに組みましたので外観的には新品のようにきれいになりました。
これで回転試験して完成となりました。
2024年11月10日
71A3分割スペシャルγ53
三重の方からSR311用の71A3分割ミッションをγバージョンで製作依頼です。
分解に入っていますが、まずはこのスピードピニオンが変わった色をしていて、歯数がなんと16歯です。S30Z系から見ると考えられないような歯数です。
どのようなデフギヤ比となっているのでしょう。
センターケースを分解していてこのようにカウンター側のベアリングがこちら側に残ってしまいました。ほとんどの場合がカウンターギヤがわに残る(かなり強い打ち込みになっています)のですが、どうした事でしょう。
スピードウォームですが歯数はSR311の標準的な5Tの物でした。
裏側は何かで叩かれたような跡が有りますが、この程度では使用可能な状態と思います。
ミッションギヤ組については特に異常なところはなく、良い状態のミッションだと思います。
M38ナットも緩みは有りませんでした。(ものすごく締まっていたけど)
4速メインインプット
シンクロに特に不具合は有りません。
シンクロもほとんど摩耗していないと思います。
3速ギヤです。
こちらもほとんど摩耗は見られません。
シンクロリングもこのまま使えると思います。
1速ギヤ
わずかにシンクロCリングに地肌が出て筋が付いているところが有りますがシンクロCリング反転で問題ないレベルと思います。
2速ギヤです。
これも又ほとんど消耗は見られません。
このまま使える状態です。
シンクロ舳先も丸まりは無く、ほぼベストの状態だと思います。
以上から見るとこのミッションはポルシェ純正ミッションとしてはほぼ問題が無い状態だと思います。
従いまして今回の改造としてはγバージョンのスペシャル仕様を織り込むことが主な作業という事になりそうです。
組付けに入っています。
ベアリングを打ち込み蓋をします。
指で持っている1.8mm厚のシムを忘れずに入れます。ベアリングはセミシールド、C3を使います。
一速のポルシェCリングはそれほど摩耗は見られなかったのですが、念のため分解して裏返し組みます。
1-2速の部品たち
下側のハブとスリーブはポルシェシンクロにとって重要なパーツとなりますが、損傷は少なく良い状態です。
3速についてもCリングは問題なかったですが、裏返しておきます。
1-2速まで組みました。
バックアイドルギヤもよく損傷するところですが、今回は新品と同程度の状態で問題なし。
5速のギヤ歯の裏側に何かがこすった跡が見られましたが、相手側には何も見られませんでしたので、もっと以前の傷なのかもしれません。
1-2速に3点支持フォークに交換
もう残り少なくなりました。
5速裏スラスト仕様に改造
M38ナットはシングルスカート付に交換、サイドロックとスカートカシメ併用で緩み止めします。
ギヤ部の組付け、シフトロッドの組付けが終了です。
ギヤ精度
エンドプレイ
0.12 0.14 0.13 ーーー 0.15
バックラッシュ
0.13 0.11 0.06 ーーー 0.05
良く揃っていて良い値です。
この部分も摩耗はしていないです。
シフトコントロールピンのオーリングを2重化します。
シフトロッドのオーリングもいつもの様にオーリング2重化です。
リヤエクステのベアリングを打ち込み、オイルシールを打ち込みます。その後フランジコンパニオンをナットで固定しますが、スプラインからのオイル漏れ事例があるので、ナットワッシャーの裏側にかなり大目に液体パッキンを塗っておきます。オイル漏れがひどい(スプラインの摩耗が大きくガタ隙間が大きい)場合はフランジコンパニオンの奥にオーリングを構築します。
3分割のセンターケースですがなぜか打こんがすごく多いです。
特にこの部分は軽くやすり掛けしてみるとこのようにかなり陥没していてやすりの当たりが出てきません。
交換したほうが良いかなのレベルですが、フロントベル側でもありオイルが満たされるところでもないので液体パッキンを多目に塗ってしのぎます。
ミッションケースに組んで完成です。
回転試験で問題なし。