Z432のS20エンジンです。自家製エンジン台車に載せています。
日産の怪鳥R380直系のエンジン
技術の日産の象徴でした。
やはり美しくバランスのいい姿です。
L型とは生まれが違うようです。
このエンジン台車を自足して出来るようになることの一つがこのエンジン後方のクラッチ系の組み立て作業です。
分厚いエンドプレートを取り付けました。S20の場合このプレートはミッションとの接続の補強の意味が大きいようです。
L型の場合ただのフタなんですが・・・。
特にミッション下半分はこれが無いと何も固定するものが無い状態です。
L型はその状態です。
フライホイールの準備ですが下側はオーナーが新たに準備したFHですが、今まで付いていた上のものと歯元の逃げがかなり大きくなっています。今まで付いていたものは歯の山にスターターが乗り上げた跡が全周にあります。
フライホイールは新しいボルトとワッシャーを使い締め込んで、締め付けトルクを1500kG/cmで管理します。
フライホイールの触れを測定します。
値としては0.04mmの振れで規格内でした。(規格は0.05mm以内)
ここがぶれると振動や異音の原因となりますので重要です。
規定トルクで締めこんだら舌付きワッシャーの舌を起してカシメます。
ネジロックなどという不確実なものは使いません。一般的にネジロックなどのケミカル固定剤は空気と遮断されることで硬化しますが、ネジ穴が何時も機密状態になる保証はありません。絶対に固めたいときは締めこんだ後グリースで覆って機密しますが、裏側にアクセスできないネジ穴ではこれが出来ませんね。
次にクラッチ盤を取り付けますが、これは今までのを流用で、センターを出す為にメンドラを差し込んでおいてからクラッチカバーで固定します。
右上の勾玉のようなプレートがネジで固定されていますが、これはフライホイールの回り止め自作工具です。
クラッチカバーですが新たに準備したものは外観が今までとは異なっています。特に3箇所のダイヤフラム固定支点部は外付けで2枚重ね溶接で補強されていますが、左側のは、内部で補強されているので見えません。そもそも刻印されているNOが右は2000番台、左は3000番台でまったく異なります。
寸法的には互換性ありそうですが、今回は今まで使っていたものを使います。
ここは180kg/cmで締めこみました。
クラッチベアリングのベアリングを交換するため分解します。オーナーの依頼です。
ベアリングを抜いた後のカラー部です。この後新品のクラッチベアリングを圧入します。
クラッチベアリングはナチの標準品のようです。こんなベアリングでも標準なんですね。
エンジンの方がひと段落したのでオーナーのEさんから左ドライブシャフトの具合が悪いので分解してくれといわれて、こちらの作業に掛かります。
見たとこはこのようにきれいなリヤ周りは見たことがありません。まるでプラモデルのようです。
が、それが現実のことになろうとは思っても見ませんでした。
事の顛末は 別ページで 特集します。
結局メッキ仕様のドライブシャフトは問題ありそうということであきらめて、普通の黒塗りシャフトに交換となりました。
中古ですが分解してグリースアップしなおしましたが、ハウジングとシャフトそれぞれのヨークの方向に位相の決めがあることに気づかず一回分解やり直しました。ヨークは同じ角度位相で取り付けが必要のようです。
新旧シャフトの比較ですが、十字ジョイントのニードルベアリングが今度のやつは表面になにやら刻印があります。塗料で埋まって何の刻印かわかりませんが、なんかありがたそうで良さそうでないですか。
両方交換でこんな感じになりました。
右側のシャフトの動きはそれほど悪くはなかったですが、メッキがはげると内部で悪い影響が出るので、こちらも交換しました。
日産純正マグホイールですが非常に貴重だと思います。
重量はタイヤ込みで15kGでした。
裏側ですがオーナーが指摘しているようにセンター穴にホイールキャップを固定する為のボルト座が3箇所張り出しているのがわかります。そのためそのままではホイールバランサーにセットできず、ホイールバランスを取ることが難しいらしいです。
ホイールナットでさえこのようにテーパーなしの円筒形状ですが、これだとホイールのナット穴と相当しっくりでないとホイールのセンターが決まりませんので確認してみましたが当然ちょうどいいクリアランスでガタはありません。
このホイールはセンターではなくこのハブボルトと位置決めすることでセンターを拾うようになっていますね。
ちょっと話は飛ぶのですが、マフラーの中間タイコ部の後ろ側のパイプ溶接部が半分亀裂が回っていました。
ここは応急的に溶接補修しておきますが、このようになると大体あまり持ちません。追加溶接した淵がまた亀裂が入る場合が多いです。
ところでこのマフラーの溶接ですが、私の持っている鉄工場用の素アーク溶接機で直すのはすごく難しかったです。なんてったって溶接棒一本で勝負でアシストガスも無ければ、ライン供給もありませんし、さらに腕もありません。電流制御はカキ氷を作る機械についてるようなハンドルを回します。自分のジムニーのマフラーを直したときも油断するとすぐに大穴があいてしまいびっくりしたもんです。それでもだんだんごまかし方を覚えたのですが、コツは厚い板厚の側から溶かして薄い側にほんの一瞬だけ溶け込みを回すようにすることと、穴が開いてしまった場合は穴の淵から少しずつ粘土を乗せるように溶棒を溶かしては冷やしを繰り返すことで肉を盛り上げていくことです。そんなやり方ですから溶接ビードはぎたぎたで汚いです。すんません。
5s後ろのスラスト受けワッシャーに若干問題があり、オーナーが部品入手をアメリカまで問い合わせてくれたのですが、やはり時間がかかるようです。そこで、ワッシャーは現状流用で作業を進めます。現状はワッシャーに締め込み跡が少しあるためクリアランス保持に対して0.1mmほどの誤差が出ますがクリアランスは0.3mmまでOKなので問題はありません。
画像は5速を組んでM38をダブルナットで締めこんだ状態です。
3速を組んでシンクロスリーブを組みますが、スリーブはいい状態のものです。
そしてフロント側のギヤも組み込み完了です。
このときのギヤの精度をチェックします。
1st 2ND 3RD 4TH 5TH
EP 0.35 0.15 0.20 --- 0.15
BR 0.09 0.13 0.10 0.07 0.13
シフトフォークは偏磨耗の見られた今までの使用品はドナーから取ったスペアに交換していきます。
そしてシフトフォーク類の組み付けも完了です。
ミッションケースですがいかにも精巧な鋳物という雰囲気があります。
そしてシフトリンケージのこの部分と内側のオーリングも交換していきます。
そして中間のケースにギヤセットをパッキンを入れて組んだ後、このリヤエクステンションを取り付け、ベアリングとオイルシールを打ち込んでいき、その後フランジカップリングをナットで固定していきます。
そしてこれがシフトレバーの中立を保持する為のプランジャーピンなのですが、左側が新たに調達したピンとオーリングのセットですが、取り付けてみるとストロークが足りないので外してみると画像の様にオーリングが下にずれており、良く見ると溝の中に半分オーリングが残っています。
どうもオーリングの線径が太すぎて押し込むときに破断してしまうようです。2本とも同じ現象でしたので、仕方なくピンのみ新品にしてオーリングは流用しました。穴側に入り込みテーパーを追加工すれば入れ込むことが出来るかもしれませんが、今回は実施しません。
フロントハウジングです。メインシャフトを受ける通称天狗の鼻を取り付けてから、ミッションケースにドッキングします。
いろいろやったのですが、71Aのハウジングの取り付けは結局この姿勢が一番確実な方法でした。
いつものとおりe-zanaraizerミッション自作簡易試験機に取り付けて回転試験をします。
ミッション外観も非常にきれいな状態です。
そして組み立てが完了して何時ものようにオイルをいれて e-zanaraizer(ミッション簡易試験機)に取り付けて回転試験するのですが、今回思わぬところで問題が出てしまいました。やはり、71Aは慣れていないので思わぬところでミスります。
さて問題はこの画像の中にありますが、何だと思いますか。
試験機があって良かったです。無ければ発見できませんでした。
フロントハウジングを外した状態ですが、71Bはこの通称 天狗の鼻がアルミ製のフロントカバーとして独立して組み付けますが、71Aではこのように板金製の筒が有るだけです。やけにここだけプアーですがアルミでは磨耗などの問題があったのかな?これは錆びてはいませんが水もかかる可能性があるので、表面処理なしのこの鉄の筒では錆が発生する可能性が有り、その場合リーズベアリングが固着しますね。
さて前述の問題ですが、回転試験でこの鉄の筒が連れ回るという不具合が出ました。まん丸でなにも止めがありませんから回りやすいです。ケースに対して打ち込みならまだ良いですが手で簡単に入ります。この筒がこのように連れ回るとこの筒の外周とフロントハウジングの間で消耗が起こります。
動かない状態では発見できなかったかもしれません。(今は回るのはまずいことがわかりましたから組んだ後手で回して動かない状態か確認します)
整備要領書だとここに1.2mmくらいのスペーサーが入ることになっていますが、この個体には最初から付いていませんでした。ベアリングと筒のつばの間にスペーサーを入れて押さえることで固定するようになっているようです。
ベアリングの出っ張りとハウジングのへこみの深さを測ると0.4mm+紙パッキン0.4mmの隙間があるようです。1.2mm以上のスペーサーが入るほどの隙間でもないですが、どういうことでしょうか?
しかたないのでパッキンシートで裏表ガードすることにしました。これで0.8mmくらいの厚みになりますし、しかもオイルモレ防止にもなります。さらに念の為、液体パッキンも塗り固めることにします。
そして改めてe-zanaraizerで回転試験です。500rpmで5速に入れて1時間回しっぱなしにします。異音・振動・シフト特に問題ありません。オイル漏れはもちろん有りませんし、スピードメーターアウトプットもちゃんと回転しており、バックスイッチもちゃんと通電します。昇温については28度から33度にとどまり5度の上昇でした。71Aはやはり回転抵抗が少ないようです。
3速についてはやはりシフトが重いですが、これは様子を見ることにします。ポルシェサーボの場合回転数が低い場合はサーボの効きが弱いことが有るようです。
FS5C71A3分割ミッションについてはこれで完成です。
スペアのフロントケースについて確認してみましたが、問題のスペーサーは入っていました。板厚は1.4mm有りましたのでどちらにしても流用は出来ませんでした。何故今回のミッションにこのスペーサーが無かったのかは謎です。
このZ432が私の工房にきてから早2ヶ月が経ちました。
最初に来たのは夏の初めの暑くなりはじめの朝でした。
8月の猛暑の時期はあんまり作業は出来ない状態がつづき、
もう9月になって工房の前の向こうに見える駿河湾の表層の色合いが濃い目に変わり
いつも消えないでかかっていた靄のような湿気も、
張り出してきた秋の高気圧に吹き消され様としています。
遠くの伊豆半島の一番先の下田の岬が目視で確認できるようになると、私はしあわせです。
やっと、くそ暑かった夏が終わっていく予感がします。
それで真昼の外の様子を見ながらさっきまでいじっていたシルバーメタリックのフェアレディーZ432 PS30のボディーに背中で寄りかかってしばらく考え事をするのです。
あんな遠くの半島の一番先のところへ、私の作った車でなんの目的も持たずただ走って帰ってくる、
そんな楽しみをいつまでも持っていたいもんだ。
てなことを言っていても、レストアは進まないのでまだまだ残暑厳しい中で汗を拭きふき、作業に戻ります。
この機械仕掛けの宝石を単体で見れるのもおそらく最後になると思われるので記念写真を取っておきます。
ミッション・エンジンの順で組み付けに入るのですが、その前にセルモーターの状態を確認します。仮付けしてピニオンを出しますとしっかりと入り込んでいますので問題ないようです。ただピニオンの先端はかなり磨耗変形している様子は有ります。
ミッションが空を飛んで車体に帰っていきます。
無事何事も無く働いて欲しいものです。
文句ばかりで済みませんが、ミッションマウントを固定しましたがその固定ナットなんですが目いっぱい締めても画像のとおりボルトの先端がのぞきません。
このナットはセルフロックナットで端面にロック部があるのですが、そのゾーンに入るかどうかぎりぎりのところです。ボルトが短いわけなんですが、このボルトは特殊ボルトで変更が出来ません。
このままいきますが緩まないかチェックが必要です。
さらに文句ばかりですみません。このミッションメンバーを締めこむボルトなんですがやけに不完全ネジ部が長いと思いませんか?これでミッションメンバーのたかだか1.6mmぐらいの板厚を締めるのですが、下手するとネジが底付きしてしまい、メンバーはガタがあると言う状態になりかねません。
今回は厚手のワッシャー2枚重ねでいきましたので、次外したとき余分だなんて取らないでくださいね。
S20エンジンも2ヶ月ぶりに車体に戻っていきます。
そしてミッションもエンジンも何とか車体に収まりましたの図です。
実はエンジンとミッションがなかなかドッキングできず結局一回やり直しました。
いつもこのタイミングはなんかもやもやっとした感じでドッキングしてゆきます。
こうすれば一発で入るという方法は私はまだ見い出せません。
なかなか合わないとパニックになりそうですが、あせると反って逆効果ですが、何時もあせります。
でも結局今回も最初に戻ってやり直して上手くいきました。
ラジエターファンを取り付け見よう見まねでワイヤーリングします。ステンレスワイヤーを使いました。
分解時わかっていたのですが、ラジエターのドレンプラグが途中で折れていますので、ここを修理して行きます。先ず中に入っているボルトの残りをきれいにします。
そしてタップをさらいなおしますとこのように復元できました。
後からEさんに教えてもらいやっと気がついたのですが、このラジエターは総アルミで出来ていて、しかも3層コアとなっています。こんなの見たことありません。外観は普通の銅のラジエターと似ているのでもうまったく銅製と思っていました。
ということはこのドレンプラグ穴の修復もミスるととんでもないことになるところだったんですね。この薄いアルミの再溶接は本当のプロでも難しそうです。おそらくやってくれるところは限られたでしょう。
ほぼエンジンルームは完成です。
この時点で エンジンオイルとミッションオイルとラジエター液、そしてブレーキ液とクラッチ液などの液体類を何回も確認します。これらのどれが不足していても、その状態で始動したらとんでもないことになりますが、ラジエター液入れ忘れて始動してエンジン焼きつきなんてこと時々耳にしますね。
オーナーのEさんが自らエアクリーナ部分のセットをやっています。この部分には組みつけ方に特別に注意することがあるようです。
そしてボンネットも取り付け完了して、後は始動を待つのみです。
運転席にいるのはオーナーのEさんですが、やはりEさんに始動は任せます。
2ヶ月ぶりの始動ですがフェールポンプが血液を満たすように作動して作動音が変わったところで、セルを回します。新品のフライホイールですがセルは問題なかったようです。順調に回ります。
そしてセル数秒でエンジンが無事目覚めました。
エンジンは問題ないようで、オイルパンやシールからの目立つオイルモレは見られません。
その後ミッションをおそるおそる入れてゆくのですが、最初はすごく固くバックに至ってはギヤ鳴りする始末でした。やっぱりクラッチが切れていないという判断でエアー抜きとクラッチ調整で何とか直すことができ、ギヤの入りは良くなりました。
やっと2ヶ月ぶりに外の空気を吸うことが出来ました。
この後、だんだんと試走を重ねていきますが、先ずは動くことはできました。
隣のロングノーズはいろいろ一緒に見てくれたクラブ員のSさんのZです。
そしてこのあと近所を20kmくらい走ったでしょうか。特に大きな問題も無さそうということで、このままオーナーのEさんが奈良まで自走で帰ることになりました。
通常だと私が500Kmぐらい走りこんで不具合が無いか確認するのですが、今回はすこし無茶っぽいですがこのままいきます。
はたして、エンジン乗せたばかりのミッションオーバーホールしたてで、ドライブシャフト交換のZで奈良までの500kmを走りきれるでしょうか。
結果的にいいますと”空飛ぶZ432”は無事 奈良へ帰り着きました。
途中機関的にはなんの問題も無かったようです。
完全オーバーホールしたばかりのFS5C71Aポルシェサーボ 3分割ミッション も、
オイルパンシール・前後クランクオイルシールを交換したてのS20エンジンも
10年前からの保管品をオーバーホールしたばかりのドライブシャフトも
その日のうちに500Kmを走破して、なんとか1発で復帰できたようです。
ただ、ここからがオーナーと助っ人の違うところなのですが、オーナーは今までとどう変わったかを敏感に受け止めますが、助っ人は他の車と比べてどうか、わたしの場合は特に自分のと比べてどうかという観点になりやすいのです。したがって私のようながさつな人間では察知できないところをオーナーは敏感に察知できます。
どうも、クラッチ系の音が気になるようです。
またデフ周辺の音も気になるとのことです。
奈良に帰り着いたEさんは結局ご自分でも下回りを確認して
クラッチ回りでは、なじむまでクラッチの切れを良くするために詰めていた遊びを適正に調整
デフ回りではデフマウントゴムの破損(以前から音が出ていた)を交換
とDIYをされて納得の432に仕上げていっているようです。
やはり車は重作業は別にして感性に直接響く部分の調整はDIYするのが納得への近道だし、楽しみでも有ると思います。
”空飛ぶZ432”FS5C71A3分割ミッションの巻はこれにてひとまずおしまい。