2016年9月9日
71BコンパチB’ β5クロス
1年ほど前カメアリクロスβ3をご購入してくれた神奈川のTさんのご紹介で、お知り合いのKさんからこのミッションのチェックを依頼されました。ミッションとしては71B2分割スプライン仕様ですが中身はレパードのギヤそしてエクステンションはショート、しかもギヤ比が異なるとのことです。取り付ける車種がレパードでは無く、特殊なのでケースは加工されていたり、オイルクーラーの取り出しがついていたりとレーサーっぽいです。
Kさんは何台かの旧車レーサーをお持ちでレースフリークというのでしょうか、サーキットのご常連という感じです。
一応問題なく使えるというこのミッション、分解前にe-zanaraizerで回転試験しますとシフトとしては問題なさそうですが、回転時異音が気になり、通常の回転音ではないゴトゴト音がアイドル含めどのギヤでも出ています。特に5速はガーと大きな音で壊れそうな感じです。
4速ではかなり音が小さくなり、通常レベルかなと思います。
回転試験後、オイルドレンにはこのように金属粉と金属片の中間のようなものが出てきました。排出したオイルの中にもかなりの濃度できらきらと金属片が漂っていました。どこかが削れている、特にアルミではないシャフトやギヤのどこかかな。
分解してチェックしてみる必要がありそうです。
それにしてもこのフロントケースの刻印 ZL71B#3というのはいままで見たことないです。
ギヤアッシー取り出しました。全体的には1-4速71Bワーナー・5速はポルシェ
ギヤ比については
1ST 2ND 3RD 4TH 5TH
ギヤ比 2.617 1.672 1.247 1.000 0.864
とクロスギヤ比であることが分かりますが、私が扱ったことのあるギヤ一比計算一覧表があるのですがこの資料を調べるとこれはOS技研の71Cクロスと同じギヤ比でした。今回のギヤは71Bなので同じものとは言えませんが、ギヤのつくりなどからみてOS系の生い立ちではないかと推測します。
71Bではこのギヤ比は私は見たことがありませんでしたが、かなりレア品ではないかと思います。
次にギヤ精度ですが
1ST 2ND 3RD 4TH 5TH
エンドプレイ 0.31 0.35 0.15 --- 1.30
バックラッシュ 0.20 0.25 0.05 --- 0.30
この値の中でエンドプレイの1stと2ndは規格外 5thはM38が緩んだとしか言いようが無い値です。バックラッシュは全体的に大きいですが、5thが特に大きい状態ですね。
早速、5速部分を見てみますが、M38ナットとスピードギヤ・ワッシャー共に何やらあばた状の外観でなにか化学薬品がかかった感じです。5速ギヤ右側とワッシャーの間に異様に大きな隙間があることが分かります。
5速を左に寄せた状態
5速を右に寄せた状態・これでもワッシャーとの間に少し隙間が見えます
このとき5速メインギヤのシンクロスプラインの背中とカウンター5速のギヤ側面はこすれあってここで5速メインギヤのスラストを受けている状態です。それで回転試験で5速でひどい音が出ていたんですね。
これがどんどん進行すると5速のシンクロスプラインが抜けて5速ギヤが空回りするようになりますが、これは71A・B含めて結構発生する悪さです。設計ミスですね。
次にリヤ側のこの部分、バックアイドラーですがサークリップの左側にやはり隙間が見えます。サークリップが溝に入っていないようです。
その結果この隙間分バックアイドラーが寄ってくるとバックのシンクロスリーブとこすれあうようになります。これが回転試験で出ていた妙な音の原因だったようです。当然どんどん削れて金属粉が発生します。
そしてまたすこし飛んでフロント側、カウンターの4速というかインプットギヤですがシャフトから3mmほど抜けていることが分かります。回り止めキーが顔を出してしまっています。このギヤのフロント側にはサークリップがあるはずなので抜け出しはしにくいはずなんですがクリップが外れてしまったのでしょうか?この状態ではフロントケースの前面まで抜けてケースとこすれて止まっている状態だったようです。
また視点を変えてこのシフトフォーク部分ですが中央の白く四角形に見える部分はシフトフォークの先端側ですが左側面(=2速側)が1mmほども摩耗して食い込んでしまっていることが分かります。これでは2NDのギヤが入りずらかったり、ストロークが大きいなどの症状になります。
ここまでアッシーの状態のままですが、パッと見なんともないように見えましたがチェックしてゆくといろんなところの不具合が見て取れます。これから単品にばらしてゆくとさらに見えなかったところの不具合が出てくるものです。
分解していますがこの1-2速に使われていたシフトフォーク、これも今までに見たことのない形状です。爪の部分の消耗が激しく、しかも2点支持で機構的に無理があるタイプです。
2速側の爪の部分の拡大ですが完全にえぐれており、金色のスライドメタルは消失して丸い足のみがあるだけです。
これは使用不可ですね。
3-4速のシフトフォークですがこちらはしっかりした3点支持でメタルもまあまあ大丈夫そうです。これはこのまま使えるし、在庫もたくさんあるので心配なしです。
5速のスラスト面は焼き付き寸前です。M38ナットが緩むとたいていこのようになります。これは使用不可ですね。ここが焼き付くと5速で走っているうちはいいんですが他のギヤへ入れたとたんに後輪がロックしてクラッチを切っても駄目です。そのまま動けなくなると思います。
5速のギヤ比は0.86でポルシェですので在庫があるので何とかなります。ちなみにワーナーなら0.86・0.83・0.75とすることができます。0.86のワーナー極めて稀ですが、今現在1セットありますがどうしましょう?
5速とこすれあったカウンター側ギヤ。かじらなくてよかったです。
5速の反対側スラスト受け面、こちらも焼き付き寸前でNG
このようになるとかじりと脱落が周期的に発生しかじりで回転が重くなり、次にかじりが脱落して急に軽くなりを何回か繰り返すようになり、最後には完全に焼き付きます。
反対側に回ってフロント側、カウンターのインプットギヤですが、抜けとめのスナップリングは入っていましたが溝からずれていたようでこのようにベアリングに密着するまで抜けてきています。気になるのはここの打ち込みが妙に緩かったことでギヤ穴かカウンターシャフトが痩せている可能性がありますが、シャフト側が細いとアウトです。クロスなので代替ができません。
このギヤの前側(画像右側)の中央部から左回転方向にかけて歯の角が4歯ほど欠けていることがわかります。この程度なら修正効くと思います。
他のギヤはOKそうです。舳先(ドッグティース)もよさそうです。
結局残るのはクロスギヤとシャフトとケースという感じですが、たいていがそうなります。
メインシャフトは振れで0.01で問題なし。
大事なクロスカウンターも0.015の振れで問題なしだし、欠けなども見られません。これが駄目だと完全にアウトです。
このカウンターの左側3速ギヤは71Aのように組み立て式別体タイプで、71Bなどの量産品には見られない仕様ですね。
この後じっくりと部品集めに入るのですが、このスピードメーター用ウォームギヤはなにかザクザクになっているので使えそうもありませんが、このウォームは内径がロングより大きくなっていますので、代替ができません。ロングなら在庫沢山あるのですが困りました。
メインインプットパイロット部短縮加工
今回これを追加工してくれということで先ずやってしまいます。メインインプットですがクランクに刺さる部分を9mmカットというものです。これで取り付ける相手のエンジンがL型でないことが分かりますがフロントベルとエンジンの間にアダプターを噛ませて取り付けるとのことで、そのアダプターの厚み変更に合わせて対応します。
これが加工前
先ず、根元の太いところを9mm追い込みます。
このようになりました。
そして先端を9mm短くして完了です。
2016年10月18日
しばらく間が空いてしまいましたが、この71Bショートミッション 特殊クロスを組み始めます。
1-2速関連の部品達。
スリーブはWPC加工品。
メインシャフトはショートのせいか曲がりは測定検出以下でほとんど0でした。
1速ギヤのシンクロ舳先がこんな風に変形しています。このままでも使えそうなレベルですがレーシングユースを考慮して念のため修正します。
こんな風に修正しました。
このパーツも何やら打痕が多いので交換です。
3速関連。すべてのギヤについてオイル潤滑を改良するため内径側ニードルベアリングが入るところにあるオイル通路に面取りをしてオイルが入りやすくなるようにしました。
短縮加工したメインインプット。シンクロ舳先はしっかりしています。
フロント側を組みましたがカウンターの前側、カウンターメインインプット=4速の打ち込みがやはり緩く、手で抜けるほどでした。これではまずいのでこのギヤを別のものに換えてかなり良くなりましたがまだ緩めではあります。本当はカウンターシャフトも換えたいところですが、クロスギヤですので代替はなかなかあるものではありません。
5速側ですがハブがかじっていることはわかっていたので代替品を準備したのですが画像の通りシャフトに通す穴の奥側が全スプラインと半スプラインで異なっており組めないのでだめでした。
仕方ないので旋盤で修正します。0.1mmほど削りましたがきれいになりました。
5速メインギヤもかじっていますので左側の代替品に交換です。ギヤ比は同じく0.86です。シンクロは今までと同じポルシェで行きます。ワーナーにする場合はリヤ側すべて影響するためシフトフォークの交換がマストですので、結果シフトロッドも交換ですがショートのワーナー用シフトロッドはなかなかありません。ロングなら比較的やりやすく、ワーナー5速ギヤさえあればできます。
組んでいくとわかりずらいですがメインの5速ハブの裏画像中央部に2mmほどのスペーサーを入れないと成り立たない構成になっていましたが今までここにはスペーサーが無かったので無理やり組んである状態のようです。とにかくスペーサー入れました。
これでやっとこのM38ナットを目いっぱい絞めれます。5速裏はスラストニードルベアリング仕様を構築。
ナットにはサイドロックボルト加工。
スピードメーターウォームギヤは使わないということなのでこのあばた状の状態で使いました。
シフトロッド組みましたが、一番下の5-バックのストライキングキーがやけに高さが低いですが、これは結果後の試験でシフト抜けすれすれの状態になっていることが分かりました。しかしここは対処の方法が無いので(ショートなので代替パーツが手持ち無)このままいくしかなさそうです。すぐには問題は出ないと思います。
5-バックのシフトフォークですが固定するスプリングピンの穴がφ4に対してなぜか打ち込むシフトロッド側はφ5となっていました。これではがたが出るし抜けやすいのでシフトフォークをφ5のタイプに交換して打ち込みました。
1-2速シフトフォークも限界まで摩耗していたので鋳鉄製に交換です。
ケースに組みだしましたがこのカウンターベアリングのでっぱり量が4.3mmくらい。
これはすごく大きな値で通常は3.4mmくらいで、1mmも高いです。ケースから外して異物や打ち込み不足を見たのですが、何ともありませんで、ただただカウンターシャフト1mm長い状態のようです。
これを押さえるフロントカバーの深さは3.4mm・・・・?
んーこれだとフロントカバーがシール厚入れても0.5mmも突き上げて隙間が出ている状態です。いままで大丈夫だったのでしょうか?
仕方なくこのフロントカバーのカウンターベアリング受け面を0.9mm深く削りました。NC機で無いので削りが汚いですが機能は保ちます。
もう一つこのフロントケースの四角いクラッチフォークの穴の右側深い傷がありますが、これは前の人がたがねを打ち込んだ痕だと思いますが、丸いシフトロッド穴まであと1mm以下ぐらいしか面がありません。これも修復しようがないので液体パッキンてんこ盛りでこのままいきますが漏れないことを祈ります。
これはリヤエクステンションの中のストライキングロッドですが左斜めにぶら下がっているストライキングレバーでこれがHパターンの中で各シフトロッドを押してギヤチェンジするのですが、先端が少し左側に曲がってしまっています。無理に強い力でシフトダウンし続けたために曲がったと思われます。このようになると当然シフトがやりにくくなる(2重かみ合いでシフトできなかったり、5速方向でシフトがすり抜けたりす原因になります。今のところまだそこまで行っていないようですが、本来は分解して修正または交換ですが、このショートのストライキングロッドは特殊でロングの分解治具が使えませんので分解ができません。将来的にはショートのエクステ単品を手に入れて全体を交換してしまうのが現実的な対応策と思います。
ケースに組み込み完了して簡易試験機での回転試験も合格でした。