2016年7月1日
71BコンパチC Ω12魔法のほうき#4
北海道のZ様からこれを依頼されました。見る人が見ればわかりますがS20エンジン用71B2分割ミッションです。これは今とんでもない値段(80近辺)で取引されていますね。無理もないですがこれが無いとS20ユーザーは今後が困ります。
これをΩ化する依頼ですがすでに私のところで3例実施しました。こちら
分解してゆきます。
ゴージャスですね。
でも、オリジナルのS20エンジン用2分割ミッションはこの画像のとおり240クロスと同じポルシェシンクロです。
この時点ですでにここに気が付きますが、5速のシンクロ舳先が抜けています。
そして、今までずっと問題にしてきたM38がやっぱりこのようにダルダルに緩んでいます。
こうなるとどうなるかの見本がこれから見れます。
これもこのようになっていますが、これは今までに分解履歴があることの証拠で、ましてやここにタガネ攻撃はもはやこれをオーバーホールした当時にこのタガネ攻撃の緩み止めのおまじないがすごく流行していたとしか思えないような対策です。
挙句の果てが結果こうなるんですね。
とにかく分解してゆきますが5速のM38ナット側のスラスト受け面は無残な有様です。
経過的にはM38ナットを迷信技タガネ加締め攻撃で締めたがやはり迷信でしかなく緩みが生じた。
・緩みの隙間の範囲内の中で5Sギヤが何回も叩かれる事態になり無理がきてかじり始めた。
・かじりによりM38ナットはますます緩められる力を受け始めた。通常ならナットの前のスラストワッシャに回り止めの切り欠きとそこに回り止めボールがあるがすごい焼き付きでとっくにはじけ飛んでいた。
・M38が完全に緩んだため5Sギヤはスラスト分力を受けるたびカウンター側の5Sギヤとこすれ出してくる。そこに引っかかるのはシンクロ舳先なのでシンクロ舳先がまともにスラスト受けて抜け始めた。(5Sギヤはもうフリーになっている)
この時点でひどいがりがり音がすると思います。
反対側のスラスト面もこの通り
その反対側のハブのスラスト面もこの通り
次にフロント側を見てみるとやはりこのようになっています。M38が緩むと当然なんですが5速とともにここもやられます。メインシャフトのインプットギヤとの繋ぎ部がこのように干渉しています。
同じくメインインプットシャフトの3速側ですが、M38ナットが緩んでしまいメインシャフト全体は前側に来放題になり、結果、3-4速ハブとこの面が直接接してしまいます。特にエンジンブレーキ時などにガーというすごい音がしたと思います。
そしてさらに同じくメインインプットシャフトのこの部分も無残な状態です。
以上のギヤの状態から想像すると、とてもまともには走れなかったと思います。
ハブ側もこの通り。
これだけのダメージがあるとこのミッションを修理しようとするとほとんど中身一式が必要になりそうですがそれならば玉数の少ないポルシェシンクロの240クロスにするよりは71C系の最新バージョンにする、つまりコンパチ化するのがもっともリーズナブルだと思います。
今やすごい価格のこのフロントケースですが、この部分に少し不具合があります。
下側の2か所のこのM10がネジ山が半分ほどすっ飛んでいます。これでも何とか締めれそうですが、少しでも強く締めるとズルッと行くと思います。
これがちゃんとしているところの画像。
まずはリコイルをかけるべく私の超小型ラジアルボール盤で加工に入ります。
でも失敗したら取り返しがつかない貴重品ですから加工する間は呼吸をしないようにしてやります。
呼吸で空気を吸い込むときは集中が途切れますね。
この超小型ラジアルボール盤がまだ無かったときは手持ちの電気ドリルでやっていましたが垂直に穴あけできる保証がありません。またこの後のタップ掛けでもタップが傾くことが多いですが、この機械ではドリル加工をした後その位置でアームを固定してドリルをそのままタップに交換して咥えることができるので正確に垂直にリコイルタップできます。ちなみにこのネジ山再構築グッズはいろいろありますし東南アジア系のコピー品がたくさんありますので選択に迷いますが私は元祖ともいえるこのリコイルキットを必ず使います。
このようにネジ山が復元できました。
このネジ山は固い金属でできていますのでネジ山が飛んでしまうということはかなり防げるようになります。
本当はすべてのネジをリコイルするのが理想ですが失敗のリスクが半端ないのでどうしてものところにとどめています。アルミはかなり固くてもこのようなネジのような肉厚が取れない部分は強度が保てず苦手な部分です。機能的なネジ構築はジェラルミンA2017以上でないと設計は無理と一般的には言われています。
またいつもの画像ですがこの部分から組み立てに入っていきます。
1-2速の部品たち。
スリーブはwpc加工しています。
こちらは3速の構成部品です。
そして4速というかメインインプットです。
シンクロ舳先がダブルシンクロ仕様になっていることが分かりますし、しかもそのパーツは新品です。
下側の3部品が新品のダブルシンクロの構成パーツです。ダブルシンクロの詳細解説は こちら
リヤ側の構成です。
バックリンクですね。
この後メインシャフトのM38ナットを締めこんで、そのナットを私の編み出した技サイドロックボルトで緩み止めをより完璧にします。
ギヤ部分が組めました。
EP0.32 0.14 0.12 - 0.22
BR0.10 0.05 0.05 - 0.08
良い値だと思います。
シフトフォークはこんなにがっしりしています。71Aとはえらい違いです。
ケースに組んでいきますのでケースのチェックですがここが異常があります。ここは位置決めノックピンが入ってくるところですが、前回の補修時ノックピンがうまく入らない状態で無理やりハンマーでたたいて撃ち込んだのでこの部分を変形させたのだと思いますが、まあオイル漏れにはつながらないので液体パッキンを多めにしてこのまま組みます。
リヤエクステンションのこの部分のパーツはもちろん完全分解してオイルシールも交換していきます。
完全分解には工夫が必要ですのでやろうとしてもできない場合が多いのではないかと思います。
特に左端のテーパーピンは完全にロックしていて、リヤエクステの狭い内部での作業となるので私は特殊な自作工具を工夫して作っていますので普通に分解できますが、この特殊工具は日産純正の特殊工具としても設定が無いのでどうしているのでしょう。
くみ上げました。
簡易試験機e-zanaraizerで今回は1500rpmで1時間回しました。
外観は71B(ただしフロントベルはS20エンジン用)ですが中身は2-3-4速ダブルワーナーシンクロのスペシャルミッションの完成です。特に4速ダブルシンクロはR32スカイラインやS13シルビアでさえなかった仕様となります。今までの破損したポルシェシンクロミッションよりはずっと走りやすくなると思います。つまり羊の皮をかぶったオオカミミッション、S20エンジンにとってはこれが有れば魔法のほうきを得たようなものです。