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71BコンパチC Ωバージョンは71Bミッションの中身を71系最終バージョンの71Cに入れ替えて性能回復を図るバージョンです。Ωバージョンは純正でも存在しない4速まで強烈なシンクロのかかるダブルシンクロとするバージョンです。バージョンとしてΩ、α、β、γ各バージョン×クロス組バージョンが有ります。
2021年9月30日
71BコンパチC Ω40クロス 魔法の箒
4速まで大径ダブルシンクロとする純正でも存在しない仕様のΩバージョンもとうとう40基目まで来ました。今回はその節目でさらにこの記念碑的なミッション製作となります。
ハコスカGTR用としてオーダーされました。
構成部品を準備していますが、右端の大きな箱はいわゆるケンメリGTR用2分割ミッションのフロントベルハウジングの復刻版です。私が知っているものとしては今2種類の復刻版があると思いますがこれはその中の高精度高品質版で、私も何回か扱いましたがこれは純正以上のクオリティーが有ります。
S20エンジン用にこのタイプのフロントベルを使って製作しているのが「魔法の箒」シリーズとなります。このフロントベルを使うとS20エンジンに自由にどんなミッションでも構成でき、どんなところへも運んでくれる魔法の箒となるのです。
中央上段がカメアリクロスギヤ
左端はバックチェック付リヤエクステンション・ウェットブラスト加工をしました。
手前に来てメインシャフト純正新品(在庫も残り少なくなりました)
一番手前はメインインプットギヤセット日産純正で22-31のハイギヤード品
となります。
これ以外にもミッションの構成部品がたくさん必要になります。
製作に入ります。
手前の段ボール箱は純正の71c用メインシャフト
センタープレートは今回特別にフラップ付きを使います。フラップというのは画像の下側にある四角い蝶番のようなものを言いますが、これは日産の純正品となり、特にスカイラインなどの高性能車が出た時に、そのフル加速時にミッションオイルが慣性力ですべてリヤ側に移動してしまう不具合を対策するために設けられたものということです。この画像を見るとセンタープレートにはほとんどオイルがすり抜ける穴が見当たりません。71Bと比較するとよくわかるのですが、71Bはセンタープレートに積極的にオイル流動用の穴が大きく開けられています。パワーもなくスピードも遅かった71Bの時代ではそれでよかったのでしょう。
ミッションオイルがリヤエクステ側に移動するとフロント側の1-4速ギヤが潤滑不足になることはもちろんのこと、リヤエクステ側のエアー抜きからオイルが吹く、リヤオイルシールからのオイル漏れが増す等のことが起こると思います。
こんな感じで取り付けられていますがかなりシンプルな作りです。
このパーツが付いているミッションはかなりレアであると思います。
ギヤの組み込みに入ります。カメアリの3速クロスセットとなります。
パッケージから取り出すとこんな感じでです。
ハブスリーブは新品を使います。
1-2速とカウンターまで組み付け。この時点でセンタープレート以外メインシャフトも含めてすべて新品です。
3速まで組みました。ハブスリーブはやはり新品
3速ー4速=メインインプット用のハブスリーブ
そしてこれはメインインプットハイギヤード用です。日産のマニュアルトランスミッションは71Aの時代からBもCもメインインプットにはハイギヤードとローギヤードの2種類のギヤ比が必ず存在します。
その理由はデフと同じような位置付けで、スポーツ車にはハイギヤード、セダンや商用車にはローギヤードとして内部の各ギヤを共通化する目的だったと思います。スポーツ車にローギヤードを選択すると各シフトギヤでの頭打ちが早く伸びが無い状態になります。
これもしかも新品を使用します。
メインインプットも組み付けました。この時点でもセンタープレート以外ほぼ新品の状態は変わりません。
リヤ側ギヤ組です。バックリンクで組んでいます。
バックリンクは機構が単純でロスが少なく設計されています。回転抵抗が少なくなりますと良いことが有るのですが、残念ながらだんだんバンクリンク用のパーツ、ギヤの入手が難しくなってきました。
精度測定に入っていますが、いつものように特製治具を使って測定精度を上げています。
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ
0.20 0.15 0.13 ーーー 0.12
バックラッシュ
0.24 0.13 0.18 ーーー 0.10
ギヤ類を新品を使っていることもありほとんどど真ん中の値が出ています。
1-2速、3-4速シフトフォーク純正新品です。
シフトフォークを組んでいます。だいぶミッションらしくなって来ました。
今回使用するケンメリ2分割タイプ71Bケース復刻版高精度バージョンがこれです。鋳肌がきめ細かくきれいにできていますし、リブも細く角がきっちりと出ています。
中間の壁厚が十分に有ります。
S20に適合なのでこのようにセルモーターの位置がL型とは異なります。内側のリブもきれいに出ているし、フロントカバー取り付け面もきれいです。
加工もきれいです。
ここもしっかりできています。
ケンメリを忠実に再現していますのでバックスイッチの位置もここになります。
ケースに組んでいます。
フロントカバーもここまで来たら新品で行きます。クラッチピボットは強化タイプを取り付けます。
回転試験中です。今回はΩバージョンでの回転抵抗の少なさの記録を大きく更新し、いつもの合格レベルの70%の値となりました。クロスギヤで有ること、バックリンクで有ること、さらに80%が新品部品で組まれていることの効果だと思います。
シフトレバーもオーダーされたので準備しました。
クィック仕様とはしないのでこの位置に取り付けます。上側の支点穴は将来クイック化するときのために予備的に開けておきました。
ハコスカgtrの純正FS5C71A3分割ミッションから71BコンパチC Ωバージョン(クロス)に変更していますので、今まで使っていた純正のフランジ結合中間つなぎプロペラシャフトでは組めなくなります。純正のフランジ結合中間つなぎプロペラシャフトは古くなって中間つなぎ部のスプラインが摩耗してくればどうしてもプロペラシャフトのブレが出ることになりますので、この点でもコンパチCにするメリットがあります。
そこでこのハコスカGTR用のスプライン差し込みプロペラシャフトを準備も頼まれました。画像は素材の状態ですが今ではハコスカに使用できるこのジャーナル分解可能なプロペラシャフトはめったに見なくなりました。
塗装をやり直してきれいにして十字ジャーナルを新品にして組み戻しています。
スプライン差し込み部分です。
十字ジャーナルが緩くなってこの状態で保持できなくてスコンとおじぎしてしまう場合は、早めのメンテナンスが必要です。分解式なら今後何回でもメンテナンスできます。
リヤ側も同じく組み戻しています。
これでプロペラシャフトの準備も完了となりました。
やはりイーザ方式クィックシフトにしたいということでシフトレバーを改造いたしました。イーザ方式クイックシフトは純正を利用して作ることのできるクィックで、あまり極端なクィックではありませんが(約30%クィックとなります)、補修部品も安心できるし、元のストロークに戻そうとすれば簡単にできます。シフトレバーダストカバーも純正をそのまま使えます。と、利点がいろいろあります。さらに裏技的なうまみでミッション側の追加支点穴の加工位置を前後加工調整することでシフノブの位置、例えばシフトノブが前すぎて手が届かないので困るとか、ハンドルを抱え込むスタイルの実践セッティングでシフトノブも前寄りにしたい、などの場合はそれを補正することができます。
取り付け時は画像のように追加で開けた上側の支点穴に取り付けます。
もとに戻す場合はイーザ方式クィックレバーの支点ブッシュの小判を上下反転して、下側の支点穴に取り付ければ通常のシフトストロークに戻ります。
2021年10月24日
71BコンパチC Ω41
ハコスカ用としてΩバージョンで組みます。
今回もセンタープレートはオイルの偏り防止のフラップ付きを使います。これが有ると急加速時や連続急坂のダッシュではミッションオイルがリヤ側に偏ってしまうのを防げます。
手前のメインシャフトも新品を使います。
1速ー2速用の組み付けパーツです。シンクロはもちろん新品に交換、ニードルベアリング、ボールベアリングも無条件で新品交換です。
3速ー4速の組み付け部品。
3速ギヤは今回は新品を使います。
左側がΩバージョンの証、メインインプットギヤをダブルシンクロに交換していますので、高速道路などで多用する5速から4速へのシフトダウンを気持ちよくできる仕様となります。
フロント側ギヤ組が完了
リヤ側、5速ーバックのパーツ達です。
バックシンクロ仕様でバックにもシンクロ機構が付いています。上段左がバックギヤで新品を使用、右側がシンクロスリーブで同じく新品を使用しています。
手前の5速は高速で伸びが良くなる0.75ギヤ比となります。
ギヤ部を組んで精度測定
エンドプレイ
0.34 0.18 0.22ーーー0.14
バックラッシュ
0.16 0.15 0.12ーーー0.08
規格どうりの良い値となりました。
シフト関連の組み付け
シフトロッドとシフトフォークが取りつきました。
71Bケースに組んで完成です。
ケースとしてはS130世代のケースで左側面に小判型のパーツが付いているのが特徴で、これは5速からシフトダウン時に誤ってバックにシフトしてしまうのを防ぐバックチェック機構でS30系には無い装置です。5速で走ってきてクラッチ切って止まってそこからバックにシフトする時は一旦ニュートラルで左にシフトしてからバックに入れなおすという操作となります。
2021年11月11日
71BコンパチC Ω43クロス (Ω42は欠番)
240ZGで5速が高回転で抜けるという現象が困るということで今回 Ω化を依頼されました。この現象ですが普通に走る分には問題ないのですが高回転のスポーツ走行、サーキットとかではあるあるの現象なのです。場合によってはコーナーリング中にシフトレバーを押さえながらギヤ抜けを防いでタイムアタックという猛者もいます。その理由は71Bでワーナーになったときシフトのクリックをボールプランジャー方式にしたたのですがこのボールプランジャが摩耗してくるとこの現象が起こりやすくなります。(通常走行では問題ないです)
メインシャフトは新品を使います。今回は亀有クロスなのでギヤは新品となりますが、加えてハブとスリーブも新品としています。
71Cにするとなぜギヤ抜けが起こりにくいか(くどく言いますが特殊な場面での現象です)というと71Cのシンクロ舳先とそれにかみ合うスリーブはスプライン面がストレートではなくテーパーとなっていてトルクがかかるほどにギヤが強くかみ合う設計となっているからです。 ただこのパーツ設計は作るのが難しくスプラインをブローチで引けませんので、鍛造加工するしかなくかなり高度な加工技術と加工機械と品質管理が必要となっていると思います。それで71Cの時代にやっと工業生産ができたのでしょう。
例としてこれは71Cの5速のギヤシンクロ舳先です。ギヤがかみ合うといいますが実際はこのシンクロ舳先がスリーブとかみ合い、スリーブとハブがスプラインで動力を伝えています。このシンクロ舳先がテーパー形状となっていることがわかります。
そしてこちらはシンクロハブですがシンクロ舳先とかみ合う部分がこのようにテーパー形状となっています。71Cはダブルシンクロがクローズアップされますがこういう基本的なところの部分部分で進化しているところがあるのです。
シンクロ舳先とスリーブがかみ合った状態
このわずかの部分で300馬力以上を伝えるのですから驚きです。ポルシェシンクロはもっと驚くのですがこのかみ合いが全周の中の3か所しかありません。
フロント側が組み立て完了。
センタープレート下側に少し見えていますが、ミッションオイルの偏り防止フラップ付きとなっています。
3速も亀有クロスで組んでいきます。
ここで3ー4速ハブスリーブも新品を使用します。
メインインプットはΩバージョンの証である純正でも無かったダブルシンクロに改造します。高速道路主体の現代の道路事情では4速⇔5速のシフト頻度が多いと思いますのでこの4速ダブルシンクロが貢献します。
もう一つ71Cになるとこの下側のカウンター右端にシザースギヤがついておりアイドリング時のガコガコ音=チャタリング音を削減する機構が全数ついてきます。機構的にはカウンターギヤより歯数が1枚多いシザースギヤを抱き合わせることで回転数の差が生じる分だけ摩擦させてチャタリングへの抵抗としています。
バックー5速のギヤ組となります。
バックにもシンクロのつくバックシンクロ方式となります。右端のシンクロスリーブは純正新品、5速ギヤのギヤ比は高速が気持ちよく走れる0.75ギヤ比です。(オプションで0.83もあり)
シフトフォーク、ロッドの取り付け
こんなに大きくなりますがアルミに受けメタルがついている超軽量高剛性フォークとなります。
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ
0.32 0.19 0.21 ーーー 0.29
バックラッシュ
0.19 0.21 0.18 ーーー 0.13
良い値となっています。
71Bケースに組んで試験機にかけます。
試験結果は良好です。
ケースは特殊ブラストをかけたのでまっさらになっています。気持ちよく搭載できることと思います。