2025年3月21日
Z432用71A3分割ミッションのオーバーホールを依頼されました。2-3速の入りが良くないという事です。これからオーバーホールしてゆきます。
ギヤ部を取り出しました。
バラバラにしてゆきます。
一番右のよく緩みが見られるM38ナットはダブルの厚ナットで締めこまれていてこの時点ではお決まりの緩みは出ていませんでしっかり締まっていました。
この状態で見ても2速のシンクロが摩耗してすでに地肌が出ています。それ以外はこの状態では大きな異常は見えないので、これはシンクロとベアリングを交換するだけの依頼されたオーバーホールバージョンでいけるなと安心したのですが、分解を進めるうちに次第にとんでもない状態であることがわかってきました。
1-2速のシフトロッドですが爪の部分がかなりひどく摩耗しています。
特にこちら側は1mm以上摩耗しています。すでに耐摩耗性の表面処理は完全に削れてしまって無くなっているので、このまま再利用するとシフトガタが大きいのはもちろん、摩耗がひどく早く進んで最後には爪が折れてしまうことでしょう。交換したほうがよく、代品も在庫あるので交換がお勧めです。(オーバーホールの場合は追加費用となります。)
こちらは3-4シフトフォークですがこちらはほとんど摩耗していません。耐摩耗性の金属(シルバー色)もきれいに残っていますのでこちらはほぼ完璧です。
5速のカウンターを取り外しました。このギヤの外周側面はピカピカに光っていますが通常はここは焼き入れ肌の黒色であるのが普通です。従ってこのギヤは何かとスラスト方向で異常な接触をしていたことになります。経験上このようになるのは5速のメインギヤのシンクロ舳先が抜けてきてここと接触するようになるためです。
そして5速のメインギヤの方を確認してみますとやはり外周側のシンクロ舳先の側面がピッカピカで、ここがカウンターとこすれていたのは間違いないようです。
それだけならまだよかったのですが、よくよく見てみるとこのシンクロ舳先をギヤと溶接で止めてあります。想像ですが、5速のシンクロ舳先が抜けてカウンター側面とこすれるようになり(このようになると1-4速のギヤはシフトができなくなります)それを以前に修理した履歴があるのだと思います。
溶接の影響はギヤの回転面の半分ぐらいにまで影響が達しています。この状態で組んで今まで稼働できていたのがおどろきです。
この5速ギヤをもう一度組むのは私は無理だと思います。費用も掛かりますがやはりちゃんとした5速ギヤを探し出して組むべきだと思います。
それでは何でこの5速のシンクロ舳先が抜けるのかというとメインシャフトのM38ナットが緩んでしまうからです。71Aはかなりの確率でこの現象が起こっています。それで私は対策として
「5速裏スラストニードル」
「M38ナットをサイドロックボルトで固定」
「M38ナットをスカート付シングルにしてカシメ」
の3っつの対策を考え出してそれを γガンマ バージョンとして対策バージョンに設定しています。
これが71Aの欠点を改善する方法で、本来は予防的意味からもすべての個体でこの対策を織り込みたいところです。
メインインプットです。
シンクロCリングは良さそうです。
こちらも本来削れるところでは無いシンクロの押さえEリングがひどく削れてしまっています。ここがこすれるところは反対側にある3-4速のハブという事になります。これも同じくM38ナットが緩むことで起こる現象です。焼き付かなくて良かった・・・
こちらが相手側の3-4速ハブ
側面がほぼ全面ピッカピカに磨かれています。磨いたのはメインインプットギヤの側面です。このような状態で激しく走るとしまいには焼き付いてロックしてしまいますが、そこまでいかなかったのは何かよっぽどすごい潤滑油を使っていたのかもしれません。
カウンターです。これも一見きれいでなんともないように見えるのですが・・・
カウンターフロントベアリングが打ちこまれるところが右側から叩かれていて座屈してしまっています。
ベアリングが入らず、その座屈下部分をサンダーで削った跡が見えます。ここは修正で何とか使えるとは思います。というか、カウンターがダメだとミッションの半分は使えなかったという事になります。
センタープレート皿ビスの周囲にポンチマークがいくつもあるのは何回かオーバーホールしてある痕跡です。
バックアイドラーもガリガリに変形して、本来はギヤが入りやすいように舳先形状であるべきところがほとんど平面に変形摩耗しています。ここは修理しなければならないでしょう。
1速シンクロ
少し金属地肌が出ていますが交換するかどうか微妙なところです。
2NDシンクロ
完全にダメレベルです。
これは交換
71Aのシンクロはしばらく前まで日産部品で購入できましたがその当時で18000円/1個という値段でした。私は今のところまだ新品在庫を確保しています。
3RDシンクロです。
こちらはまずまず再利用できるというくらいでしょうか?うっすらと摩耗地肌が光って見えてはいます。
以上、分解チェックした状態をまとめるとオーバーホールと言いながらも実際は交換必要(推奨)が出てきます。
・1-2速シフトフォーク交換
・5速ギヤメインとカウンターセット交換
・1速と2速のシンクロCリング交換
追加費用も発生することですのでオーナー様とどのようにするかご相談してゆくことになります。
今回見た異常状態の根本原因はM38ナットの緩みですので、やはりオーバーホールと言えども5速裏ニードル+スペシャルナット対策はやったほうが今後の再発を防止できると思います。となりますが、これはすなわちγガンマバージョンと同じになってしまいますことになりますけどね。
オーナー様とご相談の上、このままオーバーホールバージョンで溶接された5速ギヤの交換と摩耗した1-2シフトフォークの交換で進めることとなりました。
どちらも今となっては日産部品に買いに行っても出てこない50年前のパーツとなりますので、中古の中で探すことになりますが、特に71Aの5速ギヤは中古であってもめったにパーツは出てきませんが何とか探すしかありません。
何とか探し出した5速ギヤ
左がまともな中古品
右は今までついていた溶接修理品
組付けに入ります。
1速2速
消耗の激しかった1-2速はCリングを交換します。
1-4速まで組みました。
2速と3速のシンクロはこれまた希少となった新品ポルシェCリング交換しています。
5速は今までついていなかったM38緩み止めのワッシャーを製作して取り付けました。なぜか補修されている71Aのかなりの個体がこのワッシャーを取り外してしまっています。
ギヤ部分を組みました。
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ 0.10 0.10 0.15 ーーー 0.12
バックラッシュ 0.11 0.13 0.07 ーーー 0.07
良い値です。
ガリガリだったバックアイドラーギヤはある程度補修いたしました。今は新品はすでに出てきませんのでこれで大事に使っていただくことになります。
1-2速フォーク
右側が探し出した代替品 中古ですがまだシルバーの耐摩耗処理が残っているので良いと思います。 右側は今まで使っていたシフトフォークで段付き摩耗が起こっています。
爪部分の拡大
ケース側の準備です。
シフトブロック部分
黒色の樹脂ワッシャーの1枚がCの形に割れてしまっていますので左下の白いMCナイロン製に交換します。
ケースに組んでいます。
リヤのメインシャフトベアリングを打ち込んでその後オイルシールを打ち込んでいます。
シフトロッド部分は全部分解してからオーリングを交換して再組付けしています。
シフトブロックのアウトリガーを押しているプランジャーピンのオーリングも交換。
回転試験しています。シフトも振動異音も問題無かったです。
2025年3月31日
71A OH12
いつも定期的にミッションを送ってくださるショップさんから今回はSPL311のミッションをお預かりしました。これからオーバーホールいたします。
このミッションは非常にリヤエクステンションが長いのが特徴です。
シフトブロックのところを分解しましたがブッシュとワッシャーが消滅しています。
ミッションボックスの中を見てすぐにこの赤矢印の部分が異常があることがわかりました。シンクロ舳先の爪が6か所で欠けています。
ミッションの中身を取り出しました。
1速のシンクロCリングはダメレベルです。これは交換します。
2速のシンクロCリングもダメレベルで交換します。
3速のシンクロCリングはまあまあですが、前に見たようにシンクロ舳先が多数欠けているのでこれを交換しなければなりません。
ミッションボックスはその名の通りに箱型をしています。この作りだと前後のベアリングが完全に一体の箱の中に取り付けられるので耐久性が確保しやすいと思います。ただし組付けはすこし面倒なことになります。