2020年1月18日
S20エンジン用71Aスペシャルγ29-W
S20エンジンのオーナー様がご夫婦でこの71Aミッションを持参して訪問してくださいました。
外観は非常にきれいな状態です。これならブラストもかける必要がないです。この当時の鋳物は非常にきれいな鋳肌で形状も素晴らしく、昔よくあった精密機械の筐体鋳物の美しさが見られます。
解凍してみますとすごい色のオイルが出てきました。高級オイルということでしょうか。粘度はかなり高めでヌルヌルする感じです。
ギヤ類、シンクロ舳先などほとんど新品に近いぐらいのきれいさですが、ある程度ダメージはある様です。
メインシャフトを固定するM38ナットですがゆるみは無かったし、よくあるタガネ攻撃もなく安心しました。
3-4速のシフトフォークには定番の方べりが見られ、このまま行くとシフトスリーブが傾きスリーブ、ハブの”つの折れ”がいずれ起ります。
ここからだとより分かりやすく偏べりしているのがわかります。私はこの対策のために3点支持フォークに変更する提唱と考案をしていますが、これもその選択が誤っていないことの証明です。
しっかり組んであったのですがこの部分はダメが出てきました。スピードピニオンを無理やり組んだので回り止めボールが変な食い込みをしています。取り外すのが大変でした。
メインインプット
軽く地肌が出ていてそろそろCリングがやられそうな状態です。
5速ははっきりとCリングが摩耗していますが、かなり前からこのシンクロCリングは製廃で対処が困りますが、今のところ私は他の部品どりミッションからシンクロの程度の良いものを回収して集めていますので交換はできます。
1速も少し金属地肌が出ています。
いきなりですが組み付けに入っています。今回のミッションは1-4速ポルシェの71A5速クロスギヤをワーナーシンクロに換えるタイプですので緊張して集中して作業したので途中の画像が飛んでしまいました。8枚前の以前のポルシェシンクロのギヤ組とは大きく異なることが分かると思います。つまり外観ケースは71AのしかもS20エンジン用ケースなのですが中身は1-4速ワーナーとするのです。
5速側は71Aクロスの場合ワーナー化は困難なのでポルシェシンクロを残します。(71Bなら簡単にワーナー化できますが71Aの場合かなり検討したのですが無理そうです)
5速の裏は私の考えたスラストニードル受け構造にして5速裏の焼き付きやメインナットM38のゆるみを防ぎます。
M38ナットはダブルナットからシングルナットにしてここも同じく私が考えるベストの緩み止めサイドロック方式でロックします。(画像ではまだロック穴だけでっロックネジが取り付けてありません)
画像には見えませんがM38ナットのお尻側はメインシャフトに加工した加締め溝に加締めます。これでM38ナットは先ずは緩まないはずです。
シフトロッドを取り付けています。
1-2速はポルシェでなくワーナー
3-4速もポルシェではなくワーナー
5-Bはポルシェです。
1-2速のシフトフォークは私の考えるシフト不具合対策、3点支持フォークへ交換してゆきます。
こちらが通常の71Aで使われている2点支持フォークですが、これだとスリーブを押す爪が2か所でしかも180度まで回っていないので強くシフトを押し込むとスリーブがかしいでしまいます。
ギヤ部が完成です。
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ 0.07 0.11 0.15 --- 0.07
バックラッシュ0.12 0.14 0.23 --- 0.07
ギヤ比ですが71A5速をワーナー化したので当然71A5速クロスと同じギヤ比ですが、ポルシェシンクロからワーナーシンクロへの改造に当たってはこれを維持することには大きな意味があります。
1ST 2ND 3RD 4TH 5TH
ギヤ比 2.957 1.858 1.311 1.000 0.852
古い71A5速なのであまりギヤ比を意識する人は少ないかもしれませんが、このギヤ比は2.906から始まる後世の240クロスとほぼ同じギヤ比です。アフターマーケットの2.4や2.7から始まるクロスギヤにも引けを取りません。また71Bや71Cによくある3.3から始まるちょっとスポーティーな仕様のギヤ比よりずっとクロスしている純スポーツミッションなのです。
71Aの特徴でもあり又泣き所でもあるリヤエクステンションのシフトリンケージもオーバーホール&改善を仕込んでいきます。
オイル漏れの多いシフトコントロールピンは手前側に見える2重オーリング化してゆきます。
ストライキングロッドが刺さるこの穴も同じく2重オーリング化。
ただし、本来オーリングは回転軸のオイルを止めるものなのでロッドのスライドする部分のオイル漏れは完全には止められないのではと思います。
ケース組が完成して回転試験に入っています。シフトはカチッカチッと小気味よく決まります。
2020年8月10日
71Aスペシャルγ30
71Aの弱点を改善してオーバーホールビュルトアップするγバージョン、特に71Aしか選択の余地がない(ケンメリ2分割を使う場合除いて)Z432やハコスカGTRの場合はこのバージョンが必要になります。
今回は古くからのお知り合いのZ432Rを初めとして何台ものZ432をお持ちの方と、私のどうしても欲しいパーツを譲っていただくこと前提で物々交換でこのZ432用71Aミッションをオーバーホールします。
ギヤ部を分解してゆきます。見たところ何ともないように見えますが実は・・・・。
まずここから嫌な予感を感じるのですが、当時は流行っていたらしいM38ナットタガネ攻撃、これはこのナットの緩みを防止するおまじないでよくやられていた処理ですが、これでこのナットが回らないかというとそんなことなくつるりといとも簡単に緩んでしまいます。
シフトフォーク
本来は7mmの厚みなんですが、すり減って3mmくらいしかありません。これではシフトストロークがものすごく大きかったことでしょう。
1-2速、3-4速共に同じように摩耗しています。
おやおや、このカウンターの後端を引っ張っているはずのM14ボルトが影も形もありません。途中で緩んでも脱落してオイルと排出されるところにはついていないので、間違いなく最初から付け忘れたということです。
その結果がここに現れていますが、カウンター3速前のスナップリングが何かとこすれて削れていますが、おそらくシフトスリーブとこすれたのでしょうが、これでは回転中にゴリゴリとひどい音が出たことでしょう。
これは3速のポルシェシンクロの状態ですが、どのギヤのシンクロもほとんど摩耗はしておらず、交換されているのだと思うのですが、その組み戻し時にいろんなミスが起こってその結果が・・・・。
5速ギヤM38ナット側がガリガリにかじっています。これは71Aではかなりの確率で発生する不具合です。
5速ギヤを受けているワッシャーですが、こちらは焼き付き寸前です。この状態だとこのミッションは5速が固着して5速以外にはシフトできない状態になっていたはずです。この原因ですがどうもワッシャー内径側に見える小さなベアリング玉(これでワッシャーの回り止めをしている)がずれて無理やり組まれたことが原因と思います。
焼き付き固着していた5速ギヤとワッシャーはプレスで押さないと抜くことが出来ず、その結果メインシャフトがこのようにオシャカ(使えないものになること)になりました。
向こう側に見えるメインシャフトのセンターベアリングも焼き付きかじりでひどいことになっています。
5速焼き付きでシフトが入らなくなり、無理やりシフトレバー押し続けた結果だと思うのですがシフトフォークはもとより、シンクロスリーブもこのとおり丸坊主に近い状態に摩耗しています。
スリーブについては中古在庫で交換してゆきます。私の手持ちのポルシェスリーブもだんだんと在庫を使ってきて残すは数台分にまで減ってきています。
だんだんと組付けていきますが、ベアリングやニードルベアリング・ずくんだカラーやワッシャー・へたったスナップリングなどはすべて交換して、ハブやスリーブやギヤなどの構成部品のあらゆるところのバリや変形を修正しながら組んでいきます。
組み付けに入っています。
オシャカのメインシャフトは手持ち在庫から捻出。これも後わずか有りません。
そして極限まですり減ったシフトフォークは1-2速についてはこの3点支持スペシャルシフトフォークに交換、3-4速は良品2点支持シフトフォークの在庫品で交換してゆきます。
3点支持シフトフォークの効果は、例としていろんな場面で円筒形の蓋を閉めようとしたとき蓋が傾いてそのまま喰ってしまい動かなくなる経験があると思いますが、この時一旦蓋を戻して慎重に平行に押し込むとすっと何の抵抗もなく押し込めます。3点支持にする効果はこれと同じでシフトスリーブを平行に押すことができる事なのです。
5速の裏の焼き付きは表面を旋盤で均して修正して、機構的には画像のように軸方向にスラストニードルベアリングを構築する方式に変えていきます。これは5速の焼き付き防止はもちろんのこと、シフト時の回転変化へのシンクロ追従性、M38ナットへの回転反力が出ないことによる緩み防止にすごく効果が有ります。
ギヤ部が組み付きました。
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ
0.14 0.19 0.16---0.18
バックラッシュ
0.12 0.12 0.15---0.12
エンドプレイがアッパーぎみですが、バックラッシュはきれいに揃っています。
シフトフォークの組み付け完了
ケースに組んでいきますが、オイル漏れの多いシフトブロックのこの部分のオーリングを2重に改造するのが私のやり方定番です。あともう一点この画像の中で工夫してオイル漏れを防ぐ手段を実施しています。
シフトブロックのコントロールピンもオイル漏れの頻発カ所で、ここも私のやり方で2重オーリング化しています。
完成です。
試験機にかけて試験しています。今回はオールポルシェシンクロでオーバーホールですが、この場合各ギヤでシフトの感触が微妙に差が出ます。
S20エンジン用としては1-4速をワーナー化するバージョンも製作していますが、そちらは安定してシフトができる優れものですができる数(在庫数)に限りがございます。