2023年1月21日

71A3分割SR311 γ39-w

 SR311のミッションのオーバーホールを依頼されました。SR311はしっかりしたフレームが有り、モノコックフレームではないので、ミッションだけ下に抜くという事ができません。ミッション降ろすときはエンジンとミッションを一緒に降ろすか、エンジンを先ず降ろして、次にミッションを降ろすなどの方法しかありません。私も何回かその作業をやったことがありますが、それはもう大変な作業です。

 

 SR311ミッションはS30Zの71A3分割ミッションの元になったミッションですのですごく外観が似ていますが、ミッション全長はS30Zより40mmほど短いので互換性は有りません。

フロントベルを外すといつもこの位置にヘドロの様なオイルが固まっています。その掃除がまず大変です。そこらじゅうオイルだらけになります。

まずこの画像で右側ベアリングの上に本来は0.5mmくらいのスラスト調整シムが必要なのですがこのミッションでは省かれてしまっています。これではカウンターが常に0.5mmずつ前後に遊ぶ状態になっていることになります。

おそらく組付けでミスっていると思いますが、まずもうこの時点で嫌な予感がします。

シフトブロックはこの見たこともないような部品(ボルトをハンドワークで削ってある)で組まれています。

これですね。シフト軸がぼこぼこです。

ミッションケースのドレンボルトにかなり大きな鉄片が付いています。これだけでは何かわかりませんが次に出てきたもので何かわかりました。

もう一つ鉄片が出てきて、これがメインシャフトのM38ナットの回り止めワッシャーであることがわかりました。という事は・・・・・。

やはり私がもう何回も言ってきた事、71A系ミッションはこの部分が欠陥設計だったという事がまた証明されてしまいました。

 M38ナットは完全にメインシャフトのネジ部から外れて右側のベアリングまでずれてしまっています。

こうなると5速ギヤは後ろに抑えてくれるものが無くなるので駆動を掛けるたび後ろに押されてシンクロ舳先とカウンター5速が当たるようになります。これを何回も繰り返すとこの画像のように完全に5速ギヤからシンクロ舳先が抜けてしまいます。中央部に本来見えていてはいけないシンクロ舳先が圧入されているスプラインが全部見えてしまっています。これでは5速は空回りしてしまう事になります。

前側の分解に入ります。

全体的には大きな破損はぱっと見、無いように見えます。

3-4速のシフトフォークを外してみると完全に段付き摩耗しています。ここも私が常づね言っている71Aの欠陥で、シフトフォークの爪が2点なのでスリーブを平行に押せないことが原因です。私はここを3点支持フォークというものを考え出してこの欠陥を補っています。

1-2速はもっとひどい段付き摩耗

ちょっと戻って メインシャフトのM38ナットですがやはりこの当時流行した緩み止めのおまじない”タガネ攻撃”がされています。もちろん日産製作時はこんなことはしないので、途中で一度分解したときに誰かがおまじないをしたんだと思います。

 

ひつこいようですがこのM38ナットの緩みは71系の設計ミスです。 日産さんはこれに悩み ダブルナットにしたり、カシメ留めのナットにしたりしましたがダメで、最終的には71Cで逆ねじにしましたが結局有効打にはなりませんでした。現に71Cでもここが緩んでいるのをいくつも見ました。

私はここをスラストニードルを構築してM38ナットをサイドロックボルトで止めることで完全に対策します。もちろん71A3分割でもその対策は可能です。オプションですが、絶対にやったほうが良い対策です。

さてこの部分を分解してゆきます。

5速ギヤと取れてしまったシンクロユニット

右はか5速のカウンターギヤですが側面はシンクロとこすれてガリガリになっています。さいわいギヤ面まではカジリが進んでいませんでしたが、ひどい場合はギヤ面にシンクロがめり込んでいき、ギヤがお釈迦になります。

5速のニッドルがはいるカラーですが完全にかじっています。その右側に見えている5速のスリーブですが舳先部が丸まってしまっていて再利用は難しそうです。

5速ハブのスラスト面ですが完全に段付き摩耗して焼き付き寸前

前側に行ってメインインプット

外周部シンクロパーツがガリガリにかじっています。M38ナットが外れたことでメインシャフト全体が前側にずれてこの部分と4速ハブが当たるところまでずれてきたためです。

2速ギヤと右側が1-2速ハブですが1速側がガリガリにかじっています。再使用は不可です。

という事は1速ギヤ側もひどいことになっています。

もうダメです。カラーが抜けても来ません。ただ回転はできているので走れるには走れていたことでしょう。

1速の反対側

完全にかじっています。

私もここまでひどいのは初めて見ました。

バックアイドラー

ガリガリですが修正できる範囲かなとは思います。

リヤエクステのシフトリンケージ部を分解しました。

コントロールピンは全くシール無のピンですのでこれではフル加速するとオイルが後ろに下がったときにこの部分からオイルがジャバジャバ漏れたことでしょう。SR311系は多分すべてオイルシール無です。

私はここにオイルシールを構築しますが1重の場合と2重の仕様が可能です。

ミッションマウント固定ネジですが、ネジ山が微妙です。ここはM12-P1.5の細目ネジなので普通ピッチの1.75などを間違えて締めないようにしましょう。とりあえず再タップしておきます。

修復に入っています。

これは最も損傷がひどかった1速

焼き付き寸前です。

この1速を含めて4速まですべてポルシェシンクロからワーナーシンクロに改造していきます。

この画像を見ても全く外観が異なることがわかります。

 

1速は別の在庫の中から良品を選んで交換してからワーナー化しています。

先ずは1-2速の組付けです。

必要なパーツを揃えます。

1-2速を組みました。

ワーナーシンクロです。

5速-バックの部品です。

5速は71Aではワーナー化できないため

このギヤセットを修復します。

抜けてしまっていた5速のポルシェシンクロの舳先は元どうり圧入しています。

シンクロCリングは裏返して組んでいます。

この左側の5速ハブもスラスト面にひどい段付きができてしまっています。

スリーブもシンクロ舳先が丸まっています。

このスリーブは代品が無いのでこの舳先をハンドワークで修正して使用します。

 

ハブの段付きの状態

0.5mmぐらい段差ができるほどへこんでいます。

これをいろんな手を使って修復してゆきます。

殆んど研磨面になりましたが、まだわずかに段差がうっすらと見えていますが、あまり削りすぎるとハブの表面の固い層が無くなってしまうので、これくらいが限度です。

これが今回の不具合のすべての原因だったM38ナットの緩みを撲滅する対策 私の考え出した「5速裏スラストニードル」対策となります。またM38ナットはカシメスカート付のサイドロックボルト仕様に改造していきます。

ギヤ部が組めました。

シフトフォークも取り付けています。

ギヤ精度

1ST  2ND  3RD      5TH

エンドプレイ

0.08 0.20 0.20 ー-- 0.25

バックラッシュ

0.13 0.17 0.17 ー-- 0.13

 

かなり良い値ですが1速のエンドプレイが少な目ではあります。しかし大丈夫だと思います。

5速ーバック側

ケースの組み立てに入っています。

リヤエクステンションのシフトロッドオイルシールの2重化改造 これでリヤ周りのオイル漏れを軽減できます。

SR311のシフトコントロールピンはまさかと思ってしますのですが、純正ではここにオイルシールが有りません。

私は改造してここにオーリングを構築します。

2重にする場合もありますが、まずは1重で加工しておきます。

フロントケースのここも問題です。

クラッチオペレートのボルト穴ですが左側は問題ないですが、右側はかなり穴が拡大しており、まずはヘリサートしようとしたのですがヘリサートの下タップさえ取れないほど大きくなってしまっており成り立ちませんでした。今まではどのようにしてクラッチオペチンを固定していたのでしょう?ミッション取り付ける前に裏側からナットで締めていた?

仕方なくここは徹底的に加工することにしました。

穴をきれいに仕上げています。

裏側からネジのピースを作って入れ込んでいます。

入れ込みました。

こんな感じに復元しています。

取り付けたパーツはケースに対してかなり強く打ち込んでいますのでネジ締め時回ってしまう事は無いとは思いますがあまりに強過ぎる締め付けはしないようにお願いいたします。

フロントケースの天狗の鼻は一度もげてしまったことがあるらしく溶接で補修されていました。ここはかなりしっかりついているのでこのままにしておきます。

回転試験をしております。

1-4速はワーナーシンクロとなったのでカチカチとシフトします。

5速はポルシェが残っているので少しグニュッという感じです。