2023年6月11日

SR311 γ45

 このところSR311が続きます。

SR311の場合ミッションはエンジンと一緒でないと下せないので、ミッション修理のリスクはかなり高まります。完全に問題ない状態で直さないと再修理という場合はミッション降ろすのに大がかりとなります。(私はミッションをパーツとして修理しますが、ミッション積み下ろしはいかなる場合でもオーナー様の対応となります。)

 今回のミッションは外観はまあまあきれいで、ボルト類もピッカピカです。ミッションオイルは真っ青ですごい色ですが汚れていないので、ミッション稼働はあまりしていないという状態でしょうか?

いつもオイル漏れでひどい状態になっているシフトコントロールの部分もある程度きれいです。

ミッションギヤ部です

見たところはすごくきれいで大きな破綻は見られません。

ギヤ精度

 1ST  2ND  3RD     5TH

エンドプレイ

0.09 0.20 0.00 ーーー 0.00

バックラッシュ

0.07 0.10 0.00 ーーー 0.00

 

3RDと5THのバックラッシュ、エンドプレーともに測定では0となってしまいました。青いオイルはかなり粘度が高そうなのでそれがバックラッシュやエンドプレイを出しにくくしているのかな。でも1-2速は問題ないんだが。

 

M38は緩んでいないどころか強烈に締めこんでありレンチに延長バーかけてやっと緩むという状態でした。この締めすぎが1速や5速のギヤ精度に影響しているかもしれません。

ナットとしては緩みは無く(締めすぎでギヤ側に影響有るけど)タガネ攻撃もされていません。ちょっと見純正のまま手付かずかもと思わせるほどきれいです。

シフトフォークも全数耐摩耗金属(シルバーの部分)は残っていて健全な状態です。

シフトフォークをシフトロッドに固定するこのスプリングピン穴にこのような変形が見られました。これは交換が望ましい感じです。

ベアリングにところどころこのようなベアリングが見られるのですがレース部に見られる段付きはシールドベアリングのシールドを外した跡です。これも時々ある現象なのですがなぜかこのような組み立て方をされている場合があります。純正はもちろんこのようにはなっていませんのでここからも一度は修理履歴が有るなとわかります。

各ギヤの間にあるスペーサーを見てみるとディスタンスカラーが食い込んだ跡が見られます。M38ナットの締めこみすぎが原因と思われますが、この分エンドプレイは追い込まれてしまいます。交換が必要そうです。M38ナットは必要十分なトルクで締めこんで、その状態で絶対に緩まない組み方が必要となります。

 緩み止めでタガネ攻撃とか目いっぱい締めこみとかいろいろな方策が試みられたと思いますが、結果的にはあまり良い結果にはなっていないようです。

5速のニードルカラーはこのように線スジが入って余り状態はよろしくありません。ここにニードルベアリングがかぶりその外周にギヤが回転しています。

 

5速裏スラストニードルベアリング化オプションを行うとこのカラーは必然的に交換になります。

4速メインインプットのポルシェシンクロCリングですが交換したばかりのようにほとんど摩耗や変形は有りません。4速だけでなくほかのギヤもすべてシンクロリングに問題はなさそうなので、ここの部分は手を入れなくても問題ないと思います。この状態は私としては初めて遭遇するパターンです。

センタープレートのベアリングを抑えているプレート固定ビスですが緩み止めのポンチマーク(純正でも2か所ポンチを打つことが指示されている)が崩れていることより、ここもフルオーバーホールを過去に経験している印と見えます。

 

今回のミッションを開いた結果、機構的に修復必要箇所は殆んどないので、今回の作業の方向性として

71Aの元々の欠点を解消する 改善の織り込みに進んでいこうと思います。

大きくは

・ポルシェシンクロハブスリーブのリフィール(これは私のハンドスキル作業です)

・5速裏スラストニードルベアリングの構築

・ボールベアリングをセミシールドベアリングで交換

・コントロールピンのオーリング2重化

・ストライキングロッドオーリングの2重化

・シフトフォークの3点支持化・特に1-2速=これは現在であまり問題ないのでご要望次第となります。

 

組み始めています。

1-2速です。ポルシェシンクロがしっかりしているのでそのまま組んでゆくだけです。

フロント側が組付け完了

5速はうっすらと溶射の剥がれが有ります。

しかし、71A5速のシンクロはポルシェの場合すでに完全にパーツが枯渇です。中古としてもこれより程度の良いものはなかなか有りませんので、今回はこれを裏返して組むことします。

5速裏はスラストニードルベアリングを構築するいつもの仕様と、M38ナットはサイドロックボルト+スカートカシメ仕様としてゆきます。

 

ギヤ精度

 

エンドプレイ

0.10 0.19 0.19 ーーー 0.07

バックラッシュ

0.03 0.12 0.05 ーーー 0.20

当初の3速と5速のクリアランスが出ない状態は解消されています。1速のバックラッシュが少し少な目ですが手動で回転させてた感触では大丈夫だと思います。

スプリングピンを打ち込む穴の変形がひどかったシフトロッドは手持ちの中から一番程度の良いものを探し出して交換です。みんなシフトフォークとシフトロッドのスプリングピン穴をずらしたまま打ち込むのでこのようになってしまいます。目視に頼らず簡単な穴位置合わせ治具でセットしてからのほうが確実だと思います。

ポルシェの場合どうしても1ー2速のシフトフォークの負担が大きいので1-2速は3点支持フォークに変更します。3-4速は現状で程度が良かったのでそのまま行きます。

スピードウォームですが、ここに刻印されている5×1という数字はかなり特殊でやはりSR系が多いと思います。通常は6×1なのでここは混用しないようにする必要があります。SR系の中でも6×1でセットされて成り立っているものもあるのでややこしいです。

シフトコントロールのプランジャーピン

SR311の場合このピンが全くオーリング無の素とうしの場合が多いですが、今回の場合はいオーリングが付いていて、オーリングはわずかに経たっているという感じです。

ここは71Aで最もオイル漏れが起こるところなのでワンランクシールドを増してダブルオーリングにしました。

シフトブロックを貫いているカラーですがこのようにシフトブロックとの当たり面がカジリぎみです。ほとんどのものがそうなってしまっていますが、交換が望ましいですがこれは新品も代品もないですのでこのまま行くしかありません。

ストライキングロッドのオーリングは2重化しています。

組み立てに入っています。

リヤエクステンション

センターケースのフロントベルハウジング側の合わせ面

ここはなぜかこのように合わせ面がへこんでいます。

このようなところが前周の中で何か所か有りました。何かハンマーのようなもので叩いた感じです。

50年前の物なのでその間にいろいろなことが起こりますのでほとんどの個体でいろんなところに変化が生じています。

ここもそうです。

 

これは修正しようがないのでこのままいきますが、紙パッキンにプラスして液体パッキンも併用して漏れを防いでゆきます。

いつも問題の多いこの部分のシム調整

画像では0.65ベアリング側がへこんでいることを示していますのでここにシムを入れなければなりません。

今まで入っていたシム

厚みが0.65と見えますので先ほどの数値と同じでぴったりだと思うかもしれませんがそれではダメです。なぜなら実際に組むときは紙パッキンの厚みが入るからです。

紙パッキンの厚みなんてたいしたことないと考えるかもしれませんが測定するとこのように0.4~0.5mmもありますので先ほどのシムと大して変わらないくらいの厚みとなります。従いまして先ほどのベアリングシムは0.65+0.4=1.04の厚みが必要となります。さらに言うと紙パッキンは締めこむと0.05mmくらい薄くなる傾向にありますのでその分を補正する場合もあります。ただし紙パッキンを使わず液体パッキンで組む場合はまた別となります。

 0.4mmベアリングシムにガタが有ったとしてもすぐに大きな問題が出るわけではないですので、私の場合はちょっとこだわりすぎかもしれません。

フロントベルのオイルシール交換

フロントベルの天狗の鼻(クラッチスリーブがスライドする部分)は71Aの持病でよく緩んだり空回りしたりしてしまうところですがこの個体はしっかりしていました。ここは問題ない場合はなるべくそのままのほうが良いです。かつて圧入を抜いてオーリング交換したこともありますが、良い結果にはならなかったです。緩んでしまっている場合はもちろん完璧に固める作業をします。オーリングも少し太めの対策品を使っています。

ここにもベアリングシムが有り、ここはベアリングを抑えるとともに天狗の鼻を抑える働きもしています。ここにガタが有ると天狗の鼻が緩みやすくなります。

で、どうだったかというとやはり前述と同じようにシム厚み計算に紙パッキンの厚みが加味されていなかったので、ほかの適合するシムを探し出してきて交換です。かなり微妙なセッティングですが、71Bではこの部分がそっくり別体のフロントカバーに一体式で分割されて設計変更されていきましたのでこのような問題は無くなったんですがね。

相手側はこんな感じでスタンバイしています。

組付けが完了しました。

スピードピニオンもバックランプスイッチもエアブリーザーもドレンプラグもシフトリンケージも全て取り付けてこの後の回転試験に備えます。

回転試験いたしました。

オイルを入れて1時間シフトチェンジをしながら試験運転をしています。ポルシェシンクロでシフトに問題はなさそうです。これで完成となります。

試験御オイルは抜いて発送となりますので、使用時は必ずミッションオイルを入れてください。